嵐の“隠れた名曲”はカップリングにあり 『青空の下、キミのとなり』収録曲を聴く
相葉雅紀主演のドラマ『ようこそ、わが家へ』の主題歌でもある嵐の新シングル『青空の下、キミのとなり』が、5月25日付のオリコンシングルチャートで1位になるなど、彼らの人気は今なお絶好調だ。さわやかなアイドルソングを連想させるタイトルとは裏腹に、ダンスミュージックを大胆に取り入れた音楽性は、彼らのファンにはもちろん、ポップミュージック好きにとっても興味深いものだろう。表題曲についての分析は、リアルサウンドにてジャニーズの音楽性について考察している矢野利裕氏の記事【嵐は、J-POPの歌詞と音楽性の関係を更新するーー「青空の下、キミのとなり」の画期性とは?】を読んでいただくとして、本稿では同シングルのカップリング曲について触れてみたい。
嵐のカップリング曲は、オリジナルアルバム未収録となり後に入手困難となることも少なくない。そうした事情に加え、音楽的クオリティの高さから“隠れた名曲”として長年愛されているケースが多い。たとえば『PIKANCHI DOUBLE』に収録された「五里霧中」は、ライブ定番曲としていまも人気のナンバーで、昨年行われたハワイ公演でも披露されている。また、『Love so sweet』のカップリング「いつまでも」は、作曲に人気コンポーザーの多田慎也を迎えた1曲で、櫻井翔のサクラップを堪能することができる、嵐らしいさわやかなポップナンバーだ。(上記の2曲は後にカップリング曲を集めたアルバム『ウラ嵐マニア』にも収録されている)
今作『青空の下、キミのとなり』のカップリングも興味深い楽曲が揃っている。まずは初回限定盤に収録されている「Dandelion」。こちらの製作陣には、ASIL、Macoto56、A.K.Janewayといった、アルバム『LOVE』や『THE DIGITALIAN』などの近作で活躍した面子が名を連ねている。鋭く鳴らされるストリングスのサンプルと、軽快だが複雑なビートが新鮮で、どこか憂いのあるメロディとともに、今の嵐にふさわしい大人っぽい1曲に仕上がっている。歌詞もまた「苦くて悔しい日常飲み干して/変わらないモノなんてないから/諦めなくていいさ/ここから始まるでしょ?」と、現実を見据えながらも前を向いた内容で、大人のファンにも響くメッセージ性を伴っているのが印象的だ。
通常盤に収録されているのは、「この手のひらに」と「何度だって」という2曲。「この手のひらに」は、関ジャニ∞や西野カナの楽曲も手がけるシンガーソングライター兼コンポーザーの佐伯ユウスケ(佐伯youthK名義)に加え、SQUAREF、John Worldが作詞を手がけ、作曲は佐伯ユウスケとSupercharge、編曲は嵐楽曲ではお馴染みの吉岡たくが担当。ジャジーかつメロウなブレイクビーツに乗せて、切なくも美しいメロディを聴かせるバラードナンバーで、夜のドライブなどでしっとりと聴くのに適した失恋ソングだ。メロディーラインの美しさ、サビのキャッチーさ、ラストのドラマチックな展開、どれを取っても隠れた名曲と呼ぶにふさわしい仕上がりである。特にサビの「何でも何でも欲しがってしまって/指の隙間から/泣いてももがいてもこぼれてくだけ/今更こんなこと」と、ユニゾンで切なく歌い上げる一節は、恋の儚さを知るすべての人に響くのではないか。
「何度だって」は、作詞・作曲・編曲のすべてを、楽曲制作ユニットのyouth caseが担当。嵐の代表曲の1つである「One Love」の作詞を手がけた2人の作品で、注目したいのはその楽曲構成だ。厚みのあるスペーシーなシンセサウンドと、細かく刻むカッティングがクールなギター、そして疾走感のあるビートで華々しく始まる同曲は、Bメロでは楽曲と歌のアタックを揃えて緊張感を演出、サビへのブリッジではダブステップのようなビートに変化して予想を裏切り、いざサビに入るとダンサブルな四つ打ちと高揚感を煽るメロディでリスナーにカタルシスをもたらす。1曲の中に様々な音楽の要素を詰め込んだ、昨今のJ-POPらしい手法が使われていて、時代性がよく表れた作品といえそうだ。一方で歌詞では「もがいてるけど/思い出してあのころ口ずさんだ/夢があるんだ/くすぶった心に火をつけるさ」と、壁にぶつかっている人を励ますようなメッセージを送っている。山あり谷ありのアイドル人生を歩んできた嵐が歌うからこそ、こうした言葉に説得力が宿るのだろう。
嵐のシングル表題曲には、ポップソングとして秀逸な作品がたくさんあるが、カップリング曲ではより幅広い表現に挑戦しており、彼らの懐の広さがわかる作品が多い。さわやかな印象の表題曲とは異なる陰影をじっくりと味わいたい。
(文=松下博夫)