映画『ソレダケ/that’s it』サントラ盤が伝える、ブッチャーズ・吉村秀樹の不屈の闘志

 だから、全編ブッチャーズ音源=ブッチャーズ入門編という感覚で本作を聴いても理解はしづらい。サントラだけでブッチャーズを語ることは不可能だし、映画がブッチャーズの軌跡を語るわけでももちろんない。『ソレダケ/that’s it』は、バンドの音にインスパイアされて作られた、まったく新たな物語。CDにパッケージされた音の数々は、このロック映画の源であり、何か明確な表現になる前の「衝動」として捉えるべきだろう。

 楽曲というカタチを取らない効果音は、言葉がないぶんよけいに感覚的だ。ゆらゆら、ぶわわわ、ぐぉーん、どわあぁ、という感じのそれらは、荒ぶる本能のカタマリのよう。決して鎮火せず、癒やされて消えることもない、不気味な衝動のうねり。そこにしいて名前をつけるなら「不屈」という感情になるだろうか。ある種の人々に対する、または社会に対する、というふうに整然と説明できるものではない。とにかくいろんなものに畜生、みたいな、ものすごく原始的な不屈の闘志である。

 そこがいつだって根幹だった。メロディは優しくポップだったブッチャーズが、それでも凄まじい轟音にこだわり続けた理由。「鳴らす」というより「炸裂させる」に近いエレキギターと、「歌う」を超えてほとんど「吠える」だった唱法。もっと丁寧にできないのかと言われれば身も蓋もないが、ブッチャーズが決してヴォリュームを下げようとしなかった理由が、今ならわかる気がする。彼らの「不屈」を、石井監督が鮮やかに作品化してくれた今。

 映画のストーリーはかなり乱暴だが、それ以上に乱暴なブッチャーズの爆音と合わさることにより、結末に至る破壊力はとんでもないことになっている。さすが石井岳龍と言えばいいのか、おそるべし吉村秀樹と言えばいいのか。どれだけ作品を聴き込んで何度ライヴに足を運んだか、そういうファンの経験値はまったく意味を成さない。どのアルバムから聴けばオススメだという話すら小賢しい。ブッチャーズが鳴らしていたのは、ソレダケ。というか、ロックとは、これだけ。そんな乱暴な言い方だって本作の鑑賞後には可能になってしまうだろう。恐ろしいことに。

(文=石井恵梨子)

■リリース情報
『ソレダケ / that's it サウンドトラック盤 / bloodthirsty butchers』
発売:2015年5月27日
KICS-3184 / ¥2,500(税抜)

【曲目】(予定)
01.guitar shock*
02.10月/october(「kocorono完全盤」より)
03.toki no owari*
04.燃える、想い(「yamane」より)
05.ROOM(シングル「ROOM」より)
06.ファウスト(「未完成」より)
07.cloudy heart*
08.empty sky*
09.3月/march(「kocorono完全盤」より)
10.knife air*
11.hard attack*
12.Techno! chidoriashi(「youth(青春)」より)
13.12月/december(「kocorono完全盤」より)
14.アンニュイ(「youth(青春)」より)
15.イッポ(「ギタリストを殺さないで」より)
16.senjyu room*
17.iron bell*
18.senjyu room2*
19.last low ambience*
20.襟がゆれてる。(「「△」」より)
21.the end*

※「*」のトラックはすべて映画本編からの「音」です。
※本作にブッチャーズの新たな楽曲はありません。
 すべて既発売の作品からの楽曲となります。

http://soredake.jp/

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