ここには愛しかないーーbloodthirsty butchersのトリビュートアルバムを聴く

 bloodthirsty butchersのトリビュート『Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~Abandoned Puppy』『Yes, We Love butchers ~Tribute to bloodthirsty butchers~ Mumps』が発売された。全24バンドが集まった2枚のディスクを聴きながら、このタイトルしかなかったのだなと理解する。「そう、僕たちはブッチャーズが大好き」。その最後に「でした」を付けなければいけないのか、という現実は、今はちょっと保留しておきたい気分だ。

 偉大なオルタナティヴ先駆者であり、多くのバンドマンから慕われるミュージシャンズ・ミュージシャン。過去26年間のブッチャーズの評価は、セールスや動員ではなく、心ある音楽家/音楽リスナーが絶賛する孤高のバンドとして語られてきたように思う。リーダーの吉村秀樹はそれが不本意で、もっと認められたい、ただの伝説になっちゃダメだと口を曲げていたが、改めて聴くとよくわかる。彼らのサウンドは一般的な売れ線とは程遠いところにあるだけでなく、オルタナティヴの世界であっても主流になり得ないものだ。多くのバンドマンが手放しで「絶賛する」のは、裏を返せば「ライバル視しない(できない)」存在だったから。吉村の想いとは裏腹に、「孤高」というポジションから動くことのできないバンドでもあった。

 理由はシンプル。吉村秀樹のギターと歌が、簡単には、いや絶対に、真似のできないものだったからだ。脳を揺さぶるようにうねる轟音ギターと、音程やリズム感をすっ飛ばして心のままに吠える歌唱法。常識は通じない。小手先で小利口に考えているうちはまったく太刀打ちできないスケールのデカさというものが、いつだってブッチャーズの音楽を「規格外」に見せていた。

 違うメーカーのギターアンプを二台使い同時にモノラルで鳴らすことで、エフェクターを踏まずとも奇妙な音響効果を生むという出音の「発明」は、かなり昔、札幌時代から実践されていたという。お菓子の缶でファズを作ったというエピソードも怒髪天の増子氏から聞いたことがあるが、彼ならありえると納得する。楽器屋のカタログには絶対に書かれない発想の数々が、昔から同業者を驚かせていたのだ。曲の構成しかり、コードの押さえ方しかり。技術論ではない。「なんでそんな音が出るの?」の問いを突き詰めると、「なんでそんなこと思いつくの?」という彼の脳内にぶちあたる。そういえばNUMBER GIRL時代の向井秀徳は「Abstract Truth」の歌詞にこう書いていた。〈禅問答 YOSHIMURA HIDEKI 禅問答 答えはいらん〉。

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