怒髪天・増子直純が明かす31年目の決意「言い訳は通用しない。そういう場所でいよいよ勝負したい」

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 怒髪天が、2014年10月に行った東京・中野サンプラザホール公演の映像作品『ドハツの日(10・20)特別公演 怒髪天スーパーライブ ~秋の大感謝祭 “30(サンジュー)ベリーマッチ”~』をリリースした。同映像は、30周年イヤーを無事終了した怒髪天の2015年最初の作品であり、カトウタロウ(ギター)や奥野真哉(キーボード/ソウル・フラワー・ユニオン)、YO-KAN率いるホーンセクション、さらには初のストリングスセクションなどを加えたスペシャル編成で行われたパフォーマンスを収録したもの。また、同バンドは5月17日に東京・TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WESTの2会場でイベント『大怒髪展2015 “歌の歓楽街”』を開催するほか、5月13日には「酒」にまつわる楽曲を収録した「怒髪天酒唄傑作選~オヤジだヨ!全員酒豪~」をリリースするなど、今年もその勢いはとどまることを知らない。今回リアルサウンドではボーカルの増子直純を直撃。3つのトピックについて増子が考えていることを軸に、注目する若手などについても話を訊いた。聞き手は、増子の自伝『歩きつづけるかぎり』の取材と執筆を担当した石井恵梨子氏。

「きちんと丁寧に歌唱するっていうことに向き合えた」

一一昨年のドハツの日、10月20日に行った中野サンプラザのライブ。演奏は確かに豪華なんですけど、ただ、これが一夜限りの特別仕様である、みたいな緊張感は感じなくて。そこが一番良かったです。

増子:うん、前にJO-NETS(親しい仲間からギター、オルガン、コーラス、ホーン・セクションを集めたスペシャルバンド。2011年に「怒髪天&THE JOE-NETS」名義でホール・ツアーを展開)と一緒にやってから、そのへんの縛りがなくなったね。サポートが入ったからって特別動じない。それでバンドの影が薄くなることもない。それはバンドの成長もあると思う。一人ひとりキャラクターが立って、それぞれの役割をしっかりこなせるからできるんだよね。

一一同じことが会場にも言えますね。中野サンプラザとはいえ、大きいホールだから特別だという感覚がまったく感じられない。

増子:うん、椅子席にもけっこう慣れてきたな。こないだZeppでやった時もね、一階の後方は指定席にしてほしいってリクエストが多くてさ。開場してからの一時間、ただ立ってんのが辛いって。それはねぇ……まったくよくわかる(笑)! そりゃ本番中は立ってられるけど、一時間ただただボーッと立ってるのは辛いよ。俺ももう50手前だからよーくわかる。そういうお客さんの声を無視したくないし。そりゃ、いつもホールってわけにもいかないけど、ホールでもどこでもちゃんとできるバンドでありたいよね。本来そうあるべきだと思うし。一体感でガーッとイケる場所じゃなくても、どれだけ魅せられるのか。どれだけ熱くなれるのか。それはバンドの試練だと思うのね。

一一そのために必要なことって何だと思いますか。

増子:楽曲にきちんとのめり込む、毎曲毎曲にきちんと向き合うことができていれば、どんな状況のどんなシチュエーションでも100%鳴らすことができる。だから問題は概念なんだよね。「椅子席だからみんな静かに見るだろう」とか、逆に「いやいやロックなんだからライブハウスで!」とか、そういう先入観が不要ってことで。どこでもやれたほうがいいだろうし、椅子がある場所で「やっぱりライブハウスのほうがいいや」って思われるようなライブをやるわけにはいかないから。これは礼儀だと思うな。言い訳は通用しない。そういう場所でいよいよ勝負したいなっていう想いもあるからね。

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一一なるほど。あと、この日のライブのトピックは、初披露された新曲「ひともしごろ」ですね。ストリングス付きの豪華演出でした。

増子:ねぇ。ストリングスを従えて、いわゆるバラードを歌うっていうの……ロック・バンドが一番やっちゃいけないことだと思ってた(笑)。昔は一番ダセえなと思ってた。だけど、やっぱり楽曲優先であって。この曲に最も合う、一番効果的なアレンジは何かを突き詰めていって、そこに自分を投げ込んでいくことが本当は大事なんだよね。楽曲を第一に置いて、その精度を上げるためにみんなが同じ方向を向いて行く。その結果、この曲に必要なのはストリングスだろうっていう判断で。もちろん実際やってみたら難しかったけどね。

一一どのあたりが苦労しましたか。

増子:目の細かいビロードの絨毯の上に転がされる感じ。勢いじゃ無理だし、本気で丁寧に歌わなきゃいけない。もちろん言葉を丁寧に届けることはずっとやってきたけど、歌唱そのものを丁寧にっていうの、今までそんなになかったんだよね。だから難しいけどやり甲斐があったな。何回も練習したし。ほら、こんだけ長くやってると、ピッチ云々はもちろん、ある程度のフェイクや癖も全部「それが俺節だ」ってことにできちゃうの。でも、そこに甘えない。きちんと丁寧に歌唱するっていうことに向き合えたのは大きかったね。

一一それだけ魂を込めた「ひともしごろ」。発売からしばらく経って、今は反響も大きく返っている頃かと思いますが。

増子:うん、俺が思った以上に広い層に受け入れられてる。最初、若い層にはわかんないかなって多少思ってたの。でも、これから誰もが行く道だからね。そこで何かしら感じてくれるものがあったんだろうね。決して明るい歌じゃないよ? だけど、希望がないわけじゃない。叶うかどうかはわからんけど、道はあるんだったら歩く価値はあるぞ、という。ベタであっても、そういうものを歌いたかったんだよね。

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