THE BACK HORNと熊切監督が到達した未開の領域とは? 映画『光の音色』の演出手法を読み解く

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 THE BACK HORNの映画を熊切和嘉監督が撮る。音楽と映画の仕事をほぼ半々でやっている自分にとって、両者とは過去に何度も取材で関わらせていただいた(それこそツアーの密着から撮影の密着まで)長年にわたって非常に馴染みのある存在ではあるが、そんな自分からしても最初にその話を聞いた時はどんな作品になるのかまったく見当がつかなかった。確かにTHE BACK HORNは黒沢清『アカルイミライ』や紀里谷和明『CASSHERN』への楽曲提供やボーカル山田将司主演の『東京タクシー』などこれまで映画界とは浅からぬ関係を築いてきたし、熊切監督は現在40歳というその年齢にもかかわらず70〜80年代のパンク/ハードコアに造詣が深いという実は意外な音楽的テイストの持ち主であるが、そうであっても作品のイメージが湧いてこなかった。普通にライブ映像を収めただけの作品を撮るなら熊切監督である必要はないだろうし(まぁ、マーティン・スコセッシやジム・ジャームッシュなどはたまにわりとストレートなライブ映画を撮ったりもするけど)、かといってTHE BACK HORNのメンバー全員が演技を披露する作品というのも想像しにくい。

 『光の音色』は、そんな受け手側の想像をスルリとかわす非常にユニークの手法で、THE BACK HORNの音楽の世界を見事に映像化した作品だ。なにしろ冒頭から6分以上、画面に映るのはまるで世界の果てのような荒地(撮影場所はウラジオストック)で一人途方に暮れているロシア人の老人の姿だけなのだ。やがて、そこにTHE BACK HORNのライブ映像が交互に挿入されて、物語が有機的に動き出していく。近年、ライブ映画やドキュメンタリー映画など、人気アーティスト/バンドが主にそのファンの集客を当て込んだ映画の制作へと乗り出す機会が増えている。その多くはアーティスト/バンドの現場やその舞台裏の「熱」を映像に収めた作品だが、それとは対照的に本作が放っているのは、熊切監督の『海炭市叙景』や『私の男』の世界にも通じる圧倒的な寂寥感だ。

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