宇野維正が、DVD化された異色のコラボ映画に迫る
THE BACK HORNと熊切監督が到達した未開の領域とは? 映画『光の音色』の演出手法を読み解く
THE BACK HORNのライブパートは、観客の誰もいないライブハウス(川崎・クラブチッタ)のステージで撮影されている。インディーズ時代の楽曲(「何処へ行く」)から昨年リリースされた最新アルバム『暁のファンファーレ』収録曲(「月光」)まで彼らのキャリアを網羅しているが、単純に代表曲を並べたようなセットリストではなく、本作の物語の根底に流れるエモーションに寄り添ったもの。熊切監督のカメラは、通常のライブ映像ではあり得ないほど近い距離から、バンドの息づかいを捕えていく。時にフィクションパートが狂言回しとなり、時にライブパートが狂言回しとなり、やがてそれらが渾然一体となって観る者に感情の波が押し寄せてくるという構成だ。
そうした手法そのものは実験的ではあるが、ここで映し出されるフィクションパートも、ライブパートも、それぞれは非常に明解で、決して独りよがりな作品にはなっていない。監督とバンド、互いの作品世界への深い理解がベースになければ、これほどユニークなコンセプトを掲げた作品が本作のように美しい着地をすることはなかっただろう。今回リリースされるDVDの初回限定盤にはメイキング風景を収めたディスクも同梱されているが、まるで5人目のメンバーのようにメンバーの中に溶け合っている熊切監督の姿がとても印象的だ。「音楽と映像のコラボレーション」というとありふれた決まり文句だし、最近ではテクノロジーやアイデアの奇抜さばかりが注目されることが多いが、THE BACK HORNと熊切監督は、そのど真ん中にまだ人力だけで到達できる未開の領域があることを証明してみせた。
■宇野維正:音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter
■リリース情報
『光の音色』
発売:2015年3月4日(水)
価格:初回限定盤 ¥4,600+税
通常盤 ¥3,800+税
<収録内容>
映画『光の音色 -THE BACK HORN Film-』(85分)
劇中挿入歌
1. 月光
2. 生命線
3. シリウス
4. 罠
5. 幸福な亡骸
6. アカイヤミ
7. ブラックホールバースデイ
8. コオロギのバイオリン
9. 何処へ行く
10. コバルトブルー
11. シンフォニア
<初回限定盤特典DVD内容(54分)>
1. 「何処へ行く」 ※演奏シーン本編未収録
2. 「雨」 ※本編未収録楽曲
3. ライブパートメイキング
4. ドラマパートメイキング
5. 効果音レコーディングメイキング
6. 先行上映会&初日舞台挨拶ドキュメント
7. 特報
8. 本予告