ふくりゅうが『QUIT30』を徹底分析
TM NETWORKが活動30年で見出した"集束点”とは? ふくりゅうが新作アルバムを解説
通常、バンドやアーティストは、活動を10年、20年以上続けていると、記念イヤーに合わせてのBESTアルバム・リリース、ファンからの要望を最大公約数的に答えようとする、ヒット曲メインの同窓会的単発ツアーのループの魔力からは逃れられない。実際、TM NETWORKの活動も2000年以後、2012年の武道館2DAYS公演『TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-』での復活まではそうだった。
しかし、2012年にTMらしい独創性溢れる表現者として原点回帰したことで、日本のアーティストではあり得ないMC無し&アンコール無しという映画&映像的=シアトリカルなステージを2013年『TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-』として展開し、2013年にはよりリアルな演劇的に、2014年には春ツアー『TM NETWORK 30th 1984〜 the beginning of the end』、冬ツアー『TM NETWORK 30th 1984〜 QUIT30』として、映画的なインパクトを誇った全国ツアーを実施するなど、途切れること無くミッションをクリアし続けてきた。TM NETWORKは、80年代の全盛期を上回るスピード感で、最新のデジタル技術やアイディアを駆使してオリジナルなコンサート表現を実現にしてきたのだ。(参考:TM NETWORKによる新たな発明 “シアトリカル”なコンサート演出とは?)
そもそもアルバム『QUIT30』に収録された、ミュージカルのようにストーリーテリングされた組曲「QUIT30」は、2013年におこなわれた全国ツアー『TM NETWORK 30th 1984〜 the beginning of the end』で、物語が展開する際のインタールード的なBGMとして書き下ろされたナンバーの発展的な進化系だ。当時の模様は、Blu-ray/DVD『TM NETWORK 30th 1984〜 the beginning of the end』としてライブ映像が発売されているので、アルバムのデモ音源を聴くような気分で聴き比べる楽しみもあるだろう。コンサート活動を継続してきた結果が、効率が優先される元気の無い音楽業界において無謀ともいえる壮大な2枚組オリジナル・アルバム作品『QUIT30』を生み出せた理由なのかもしれない。
「QUIT30」組曲は、サウンド的にはプログレッシヴ・ロックと呼ばれるピンク・フロイドやEL&P、キング・クリムゾンを彷彿とさせるサウンドや歌詞世界だが、ヴォーカリスト宇都宮隆が歌うことでポップミュージックとなるTM NETWORK=マニアックではないという方程式が面白い。さらに、アルバム中唯一の、木根尚登作曲によるキネバラ「STORY」にも注目したい。エア・サプライを彷彿とさせるAORサウンドは、TMの重要な一面である“やさしさ”として欠かせない要素だ。先日もニュースで誤解されていたが、木根尚登はそもそもギターソロをバリバリ弾くようなギタリストではなく、“多彩な才能を持つ作曲家クリエイター”としてTM NETWORKにジョインしたメンバーなのだ。しかし、そんな誤解すらネタにしてしまうメンバーの柔軟性ある心の広さには感心してしまう。とてもネット時代に対応したプロデュース能力のあらわれだと思う。
TM NETWORKの木根尚登が全力でGet Wildを弾いてみた(ニコニコ動画)
TM NETWORKの木根尚登がひとりでStill Love Herを演奏してみた(ニコニコ動画)
アルバム作品『QUIT30』では、コンセプト・アルバム『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』の主人公キャロル・ミュー・ダグラスの成長、そして2012年に提示されたコンセプトである、地球外生命体であるTM NETWORKの3人が潜伏者として地球を調査し続けた経緯、結果、その経験を懐古するような物語性が、歌詞のはしばしから感じとれる。直接的には描かれない、謎めいた“ループ”な世界観を彷彿とさせるプレゼンテーションが想像力をかきたて尾を引くのだ。