小室哲哉、奥田民生、大友良英らが語る「ハイレゾ」の可能性は？ 『ウォークマンぴあ』目玉記事ご紹介
奥田民生「意図しない劣化に悩まされることなく、想定した通りの音で届けられる」
――奥田さんは昨年リリースされた『O.T. Come Home』（キューンレコード）をハイレゾ配信されていますが、CDとハイレゾで音の作り方に違いはありますか？
奥田：CDのクオリティに慣れきっていたところにMP３などの圧縮音源が登場して、今は音楽配信も主流になってきたので、作るときもやはりパソコンやポータブルオーディオで聞かれることを意識しています。簡単に言うと、「ローをちょっと足さないとパソコンでは聞こえないかも」と考えて少し派手目に調整する……などですね。演奏する側としては「プレイが良ければいいかな」という感覚もあるんですが、エンジニアはCDではないフォーマットになったときの聞こえ方を踏まえて作っています。ずっと「もうちょっとクオリティが上がってくれりゃいいのに」と思っていたので、ハイレゾの登場は嬉しいですね。マスタリング音源に比べるとCDでも劣化しているので、ハイレゾが出てきてようやく「デジタルは音がキレイなんだよ」というレベルに達したのではないでしょうか。『O.T. Come Home』はナローな音楽なのでわかりにくいかもしれないけど、よく聞くとベースの音などが全く違って、低音の響き方が深く、奥行きを感じられると思います。
――今後、ハイレゾで発売すると考えたとき、どんな音作りをしたいですか？
奥田：意図しない劣化に悩まされることなく、想定した通りの音で届けられるからこそ、作る側が好みの音を追求するという意識を持つのが重要だと思っていて、いわゆる“キレイな音”だけが全てじゃないかなと。例えば僕は中高生の頃からレコードを聞いて育ったので、あの劣化の仕方に味があると感じるし、ワイドレンジの音楽はあまり好みの音じゃない。だからデジタルになっても、レコードのような、昔っぽい音を求めているんです。ああいう風に聞こえる録り方をしていきたいですね。
大友良英「何の音がどう重なっているのか、はっきりわかる」
——大友さんはカセットテープやAMラジオのサウンドもお好きとのことですが。
大友：カセットやAMラジオには良い感じのローファイ感がありますね、自然に落ちついている感じで。ただ、最近のデジタルで圧縮したローファイ感はあまり好きじゃなくて、シャカシャカ聴こえてしまう。最近のポップスのミックスって、MP３に合わせている感じがあって、ちょっと苦手です。でも、だからといってすべてアナログが良くて、デジタルが悪いとは考えていない。選択肢がいっぱいあるのが理想的で、そういう意味でハイレゾには期待したいです。
—―実際にハイレゾを聴いてみて、どう感じましたか？
大友：ビートルズ「カム・トゥゲザー」の24ビットリマスターは初めて聴いたんですけど、僕が知っているそれとは違う世界でした。このプレイヤーとヘッドホンで聴くと、何の音がどう重なっているのか、はっきりわかる。これまでは音のかたまりとして捉えていて、“ビートルズ・マジック”としか言えなかったようなサウンドの秘密が解けたような気分。リンゴ・スターがドラムを叩いている時の、スネアの「ザー」っていう響きまで入っているから、大したものだね。
—―『あまちゃん』サウンドトラックも、ハイレゾ配信が始まりましたね。
大友：あれはNHKの506スタジオっていう、日本でも有数のスタジオで録っていて、俺もすごく好きな音なので、マスター音源がそのまま届けられるのは嬉しいな。あまちゃんスペシャルビッグバンドは、ジャズの人たちと合わせ方が違うから独特のズレがあるんだけど、そこが魅力だと思う。これで聴けば「サックスが一人ズレている」とか、粗が目立って面白いんじゃないかな（笑）。小泉今日子さんの「潮騒のメモリー」も、ぜひハイレゾ音源で配信してほしいですね。録音の質感が80年代っぽくなるように、なるべく古い機材を使ったりして生っぽく録ってあるので、それを楽しんでほしいです。なによりマスターと同じものを届けられるのは魅力的です。
現在、音楽業界でも大きな注目が集まるハイレゾウォークマンを通して、各著名人・ミュージシャンが自身の音楽観についてまで語っている同書は、ウォークマンやハイレゾ音源について興味を持っている方だけではなく、音楽カルチャー全般について考えるうえでも示唆に富んだ内容と言えそうだ。
なお、同書では上記の企画のほか、歴代の開発者たちが語るハイレゾウォークマン誕生秘話や、4大ハイレゾ配信サイト紹介といった企画のほか、最新ハイレゾウォークマンが当たる読者プレゼントなども実施している。
（構成＝編集部）
■書籍情報
『ウォークマンぴあ（ぴあMOOK）』
ムック: 93ページ
出版社: ぴあ
発売日：10月28日
価格：￥1,350
