嵐が体現するアイドルの音楽的成熟とは? 前作『LOVE』から新アルバムの方向性を読む

 ロック・ミュージシャンがいかに大人になるのか、という問題があるように、アイドルがいかに大人になるのか、という問題がある。AKB48が制服を着て登場したとき、筆者は「そうか、彼女たちにはいずれ卒業するときが来るのか」と思った。お笑い芸人のマキタスポーツは「アイドルとは〈終わり〉を見る芸能である」と言っていたが、どこかで〈卒業〉の予感を抱えながら、刹那的なパフォーマンスを応援するのが、アイドルの受容のしかたなのかもしれない。少し残酷なことだとも思う。

 ジャニーズのアイドルは現在、大人になりながらアイドルでもあり続ける、という前人未到の(?)領域を突き進んでいる。これは、40代を迎えてなお国民的アイドルであるSMAPが開拓したものだと考えていいだろう。中居正広と草彅剛はスカルプ・DのCMに出演していたが、育毛剤(!)のCMに出演しても揺るがないアイドル像を確立した功績は大きい。少年隊が道を示し、SMAPが大きく開拓した領域を、TOKIO、V6、Kinki Kidsなどが追随している。

 ロックをめぐる合言葉に“Don’t trust over 30.”というものがあったが、アイドルにとっても、30歳という年齢はどこか境界線めいたものがある。北公次が29歳までフォーリーブスを続けていたことも、当時としてはかなり驚きをもって受け入れられていたと聞く。その意味で言うと、2013年は、他ならぬ嵐にとって重要な年だったのかもしれない。嵐にとっての2013年とは、メンバー全員が30歳を迎える年だったからだ。もちろん、本人たちはそんなことは意識していないだろうが。

 2013年に発表された嵐『LOVE』を聴いたとき、ジャケットと同様、クールで渋いアルバムだという印象を受けた。もしかしたら、わかりにくいと感じたファンもいたかもしれない。前作『Popcorn』が、楽しくポップなアルバムだっただけになおさらだ。冒頭の「愛を歌おう」が、いきなりシンフォニックなトラックに「Hey! 今思いのままに/Hey! 愛を歌おう」という壮大なメッセージ。続く「サヨナラのあとで」も、上品なR&B調の曲を丁寧に歌い上げている。筆者に「これが30代を迎えた嵐か!」と印象づけるのに十分な出だしであった。ソロ楽曲にしても、大野智「Hit the floor」は派手さを控えた作り、マリア・マルダー「真夜中のオアシス」を想起させる櫻井翔「sugar and salt」も落ち着いたラップを聴かせてくれる曲となっている。「Starlight kiss」「FUNKY」などのディスコ・ナンバーは、メロディアスで享楽的なディスコというよりも、もっと抑制が効いていてリズムの反復を強調するものである。音楽で踊ると言っても、カラオケの延長でみんなで馬鹿騒ぎをするのではなく、「鼓動伝わって揺れてるDisco floor」(「FUNKY」)といった大人のたしなみである。

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