矢野利裕のジャニーズ批評
嵐が体現するアイドルの音楽的成熟とは? 前作『LOVE』から新アルバムの方向性を読む
このように、嵐は『LOVE』というアルバムとともに30代を迎えた。『LOVE』を聴いたかぎりの印象では、キーワードは〈クール〉ということだと思う。ここで言う〈クール〉とは、〈冷静で理知的で超然としたかっこよさ〉といったものを指し、ジャズ界隈で使われていたものを念頭に置いている。派手さは控えめだが、渋くてかっこいい。楽しむには、これまでと違ったリテラシーが求められる。嵐は今月、『THE DIGITALIAN』という新作アルバムを出す。どのようなアルバムになっているかわからないが、〈クール〉な『LOVE』の次の一手だということは意識しておきたい。もし、『LOVE』以上に〈クール〉なものだったとしてもひるんではいけない。ファンも、その〈クール〉さに応えよう。ここには、アイドルがいかに大人になるのか、という問題があるように、アイドル・ファンがいかに大人になるのか、という問題が潜んでいる。大人になってもアイドルであり続ける存在は、一方で、大人になってもアイドル・ファンであり続ける可能性を示してもいるのだ。
■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。