アゲハスプリングス社長が語る、組織的プロデュース論「プロジェクト全体を組み上げる人材が必要」

「アゲハスプリングスは“新しいパートナーシップ”という選択肢」

ーー個人ではなく会社としてプロデュースワークを行うスタイルも、日本の音楽界ではかなり異色でした。

玉井:我々はアゲハスプリングスという屋号を掲げて、その価値を高めていくというチャレンジをしていますが、屋号というものは本来、100年くらい経たないと価値が出ないものなんですね。個人の大先生の価値は会社が築いてくれるのですが、屋号の価値は難しい。しかも、たくさんいるクリエイターの中の新参者でしかない。そうした状況の中、大先生でもアーティストでもない我々が、屋号でロイヤリティ(売上等に応じた報酬)を取れたことは大きかったですね。これは僕らがこだわってきたことの勲章だなと思います。最初は僕個人への依頼も多かったですが、クライアントに対して「こういうやり方もある」ということを説明して実績を積んできた結果、理解を得て今に至っています。

ーーここ10年の音楽業界はパッケージ不振もあって激動の時代でしたが、玉井さんはアゲハスプリングスにとってはチャンスだと明言されています。

玉井:たとえば、インディーズで成功しはじめているバンドがいて、今までならインディーズに居続けるか、メジャーに所属するかという選択しかなかったと思いますが、そこに僕らのような選択肢が入ってきたということです。うちで元々持っている魅力を損なわずにクリエイティブ力を上げて実績を積み上げることで、メジャーデビューしなくても成功できる。メジャーに頼るか頼らないか?あるいはインディーズで頑張り続けるか?以外のこれは新しいパートナーシップという選択肢で、僕が20歳でバンドをやっているとしたら、アゲハスプリングスを選んでいます。何故かというと、今はメジャーもインディーズも個人も何かしら音楽を掘っていけばYou Tubeなどの動画サイトで聴くことができるので、CDをたくさん売って稼ぐ、というビジネスモデルだけの形態は成立しにくくなっているからです。言い換えると、ユーザーがアーティストに近づく手段がCDだけではなくなっていて、アーティストにとっても自己表現や自己実現の可能性を広げていくのは、CDを全国に置くことやTVでプロモーションするだけではなくその中身やスタイルがより一層問われてくる。だとしたら、アーティストは楽曲制作やパフォーマンスに集中して、ヴィジュアルやPV、面白いグッズのアイデアも含めて、我々がプロデュースする、ということも成立するわけです。僕たちは独自の音楽的ノウハウという軸になるツールを持っていますし、それに対する“かけ算”の仕方もわかる。この“かけ算”の部分が我々の強みであり、これからの時代に合っているところだと思います。

ーープロデュースのあり方がより包括的なものとなっているわけですね。音楽の楽しみ方、消費の仕方も今後5〜10年でさらに変わっていくと考えますか。

玉井:変わると思います。例えば気にいった曲と出会うのはちょっと前までは本、テレビ、ラジオでした。今はモバイルやWebが中心で、出会ってから自分に入ってくるまでにお金が動かないのが前提ですよね。でも人は感動する生き物で、感動したことを黙っていられる人は少なく、必ず誰かに言いたくなるものなんです。たくさんの人が感動していると言っていたら、そこに価値が生まれます。その価値をどうやってマネタイズしていくかが大切です。ちょっと前までは、Facebookみたいにお金を払わずに遊べるものなんて世の中にはなかった。自分が何かを提供して、そこに広告がないというあり方は斬新でしたよね。でもあれが数兆円のビジネスになっているんです。音楽も同じような形になる時代がくると思いますし、ぜひそうしたい。ひとつの例として、「僕はこの曲が好き、私はこういうものです」ということを明らかにして、それを知りたい人がその情報に対価を払うという形。ひとつの感動をグルグル回していくんですね。ただ闇雲に点と点をぐるぐる回すのではなく、ひとつの点を大きくグルっと回すようなビジネスのやり方があると思う。その中でどんな価値を作れるかというのが僕らのやることで、僕らが紹介できることもあると思います。

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