映画『渇き。』では女子高生ラッパーも起用 中島哲也監督の“攻めた”楽曲リストをたどる

『まげてのばして』

 2010年公開の『告白』は、さらに選曲の先鋭性が極められる結果に。主題歌にRADIOHEADを起用したのを筆頭に、AKB48、THE XX、Curly Giraffe、渋谷慶一郎、やくしまるえつこ&永井聖一と錚々たる面々が参加。もし音源だけ聴いても、まさか映画のサントラとは思わないだろう。中でも大活躍なのはスリーピース・ノイズ・ロック・バンド、BORISで、新曲を含め6曲を提供。少年少女たちの鬱屈とした心情や暴走を表現するのに、見事一役買っている。

『虹が始まるとき』BORIS

 そして新作『渇き。』では、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのでんぱ組.incの『でんでんぱっしょん』をはじめ、テクノポップユニット・Trippple Nippples 、覆面女子ラッパー・daokoといった現代カルチャーを象徴するような楽曲から、『Song to the moon』などの古典クラシックまで多彩な選曲がなされている。イジメのシーンに爽やかなギターポップを使用したり、主人公が口汚く毒づく後ろでディーン・マーティンの『Everybody Loves Somebody』が流れていたりとミスマッチな組み合わせも、物語の狂気の度合いを高めている。

『でんでんぱっしょん』でんぱ組.Inc

 ここまで総ざらいしてみると、単にBGMとしてのみならず、時に登場人物の心の機微や物語のテーマを表すものとして、いかに中島作品に音楽が不可欠かがわかる。そしてその一端を担っているのが音楽プロデューサーの金橋豊彦氏だ。氏は、前述の菅野よう子やガブリエル・ロベルトらも所属するGrand Funkの代表。そして彼もまた、中島監督同様長らくCM製作に携わってきた人物である。一瞬で観客の心を掴むような映像と音楽の出会いという点において、ふたりはいわばスペシャリストというわけだ。

 そんな音楽的な意味でも、新作『渇き。』は中島監督の「攻め」が前面に押し出された作品に仕上がっている。未見の人はぜひとも劇場で、その破壊力を体感してほしい。

(文=板橋不死子)

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