草野マサムネも注目する福岡発バンド NYAI、小熊俊哉がそのポップセンスを解説
2019年も折り返し地点を迎えたところで、〈退屈を定規みたいに並べて遊ぶ/毎日をねじ曲げるような事を待ってる〉なんてローファイ極まりない歌詞を聴くことになるとは。チャーミングで捻くれた言い回しには、なぜだか妙な親密さも感じられる。the pillows「Funny Bunny」とベン・リー「Away With The Pixies」をミックスしたような曲調に加えて、気だるい歌声と黄昏た演奏、エモさの極まったメロディも最高。NYAIのニューアルバム『HAO』の収録曲「Boredom」を聴いて、一発でこのバンドの虜になってしまった。
福岡発のNYAIは、takuchan(Vo/Gt)、ABE(Vo/Key)、showhey(Gt)、たにがわシュウヘイ(Ba)、アヤノ・インティライミ(Dr)による5人組。2011年にmixiの掲示板で「バンドメンバー兼飲み仲間」を募集したのが結成のきっかけで、そんな緩いエピソードさながら、自主制作を重ねつつマイペースな活動を展開してきた。
そのなかで大きなトピックが、2015年5月に、同郷のNUMBER GIRLに捧げた非公式トリビュートコンピ企画『Good-Bye SCHOOL GIRL』に参加したこと。NYAIによる「IGGY POP FAN CLUB」のカバーは、本家MATSURI STUDIOにもSNS上で紹介され、現在までに45,000回を超える再生回数を記録している。さらに、翌年には初の全国流通フルアルバム『OLD AGE SYSTEMATIC』をリリース。90年代のオルタナ〜インディーロックへの愛情に満ちたサウンドは、地元のシーンを超えてじわじわと注目を集めていく。
そして2018年には、『OLD AGE SYSTEMATIC』に収録された「Merrygoround in rainy days」が、ラジオ番組『SPITZ 草野マサムネのロック大陸漫遊記』(TOKYO FM)で流れるというサプライズも。こちらも同郷の大先輩である草野にフェイバリットとして紹介されたのは、NYAIにとって転機ともいうべき出来事であり、今回こんなコメントを寄せてくれた。
「ラジオの前にファンクラブの会報でレコメンドしてくださってるという話が入ってきていて信じられませんでしたが、そのあとラジオで草野さんが曲をかけてNYAIというバンド名を発してくれたので『本当に聞いてくれてるんだ』と実感しました。作詞・作曲を担当するtakuchanのギターポップの目覚めは、スピッツのシングル『チェリー』のカップリング曲『バニーガール』で、そこからいろいろな音楽を聴くようになり今に至ります。スピッツは当たり前のように日常で流れている音楽ですが、バンドで音楽をやるようになってから、ポップミュージックを作り続ける凄さを改めて感じています」
草野の耳も惹きつけた『OLD AGE SYSTEMATIC』の甘酸っぱさと疾走感、ざらついたギターポップは、SUPERCARの傑作デビューアルバム『スリーアウトチェンジ』の影響下にあるもの。捻くれたリフや一筋縄ではいかないメロディにはPixies、力の抜けたルーズな佇まいと、そこから滲み出る詩情にはPavementを感じずにいられないし、抜けの良さ、音の太さ、手数の多さの三拍子揃ったドラミングは、アヒト・イナザワのプレイを踏襲しているようだ。