多部未華子の“朝ドラ帰還”がもたらす圧倒的な説得力 『風、薫る』が描く女性たちの生きざま

『風、薫る』(NHK総合)第15話では、小日向(藤原季節)に対する直美(上坂樹里)の反応に注目が集まった。
小日向から突然交際を申し込まれた直美。驚きつつ、どこか予想どおりという表情であり、あっけなく奥様になれてしまうことに拍子抜けしているようである。「私なのに」とこぼしたところに内心の葛藤も垣間見えた。

出自を偽れば、たやすく奥様になれてしまう。しかし捨松(多部未華子)は直美の嘘を見抜いていた。けれども捨松はそれを責めない。ここで捨松は自らの生い立ちを語るが、その歩みは彼女が「マイライフ」と呼ぶ自身の生き方とつながるものだった。
捨松の夫は陸軍大臣を務めた大山巌(髙嶋政宏)で薩摩の出身。捨松は戊辰戦争で新政府に敗れた会津の人間である。仇敵の家に嫁した自分に何ができるのかを考えた捨松にとって、負け戦で味わった経験が原点になった。
城が陥落し、空腹を抱える9歳の捨松に差し出された握り飯。冷え切った握り飯に込められた人の気持ちのぬくもりに、捨松は救われたのだろう。鹿鳴館での夫人による慈善会の活動を通じて、この国にチャリティを広めることが、捨松の人生でやるべき仕事になった。
「私にとっての結婚はゴールではなく、その先のマイライフ。私の人生を生きるための手段」
そう言い放つ捨松の言葉は直美に刺さったようだ。直美はすりの少年をかばう小日向に共感し、小日向の好意を受け入れる。
第15話では、成熟した女性の生き方が対比的に描かれていた。朝ドラはその時代の女性たちの生きざまを描いてきたが、明治を舞台にした今作では、主人公二人のほかにも周辺人物の様子が活写されているのが特徴だ。

捨松役の多部未華子は、2009年度前期連続テレビ小説『つばさ』(NHK総合)で主人公の玉木つばさを演じた。多部の表情を読ませない平常動作から、感情を解き放つ瞬間の力強さは、心をとらえて離さないものがある。今作の情熱を胸に秘めた捨松は、朝ドラヒロインの里帰りとしてこれ以上ない配役といえる。
もう一人、りん(見上愛)の母の美津を演じる水野美紀について、今作の役柄は士族の奥方である。美津は、安(早坂美海)を連れてりんの元に身を寄せたが、卯三郎(坂東彌十郎)の承諾を得て、納屋の1階で箏の指南を始める。
のちに「トレインド・ナース」を目指すりんや直美、また社交界の華である捨松に対して、美津は明確に旧世代に入る。時代に取り残された一人の女性が、どのように明治の世を渡っていくかは現代の私たちにもヒントをくれるだろう。

りんたちの隣人として丸山礼演じる中山マツが本格的に加わり、また、次週予告で美津がトレインド・ナースを「病人の面倒を見る下女」と顔をしかめるなど、波乱含みの展開で主人公二人の周辺がにぎやかになりそうだ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK






















