『風、薫る』フユの偽らざる思い 『あんぱん』『虎に翼』にも登場した“手強い上司”たち

『風、薫る』フユなど朝ドラの手強い上司たち

 さまざまな患者との出会いと別れを繰り返しながら、現場で“看護婦見習い”として経験を重ねていくりん(見上愛)と直美(上坂樹里)。NHK連続テレビ小説『風、薫る』の第9週「看病婦とアメ」では、これまで隔たりのあった看病婦たちとの対話を試みる様子が描かれている。

 特に千佳子(仲間由紀恵)の手術に立ち会ったりんは、病院でいちばんの古株である看病婦のフユ(猫背椿)の流れるような手術介助を目の当たりにして、彼女から教えを乞おうとする。しかし、フユの態度は相変わらずそっけない。りんが断られてもなお頼み込むも、彼女は「いいよ、お金をくれたら」と冷たく突き放す。実際、自らの立場や生活が危ぶまれるのではないかと、フユが不安を覚えるのも無理はない。看護婦見習いという立場ではあるものの、りんたちが来てからの帝都医科大学附属病院の看護体制は着実に変わりつつあった。

 看護婦見習いと看病婦の溝はなかなか埋まらない。しかし、だからこそ、彼女たちがりんたちに心を開いてくれる瞬間は、立場や境遇による確執が描かれてきたこの物語においても特別なシーンとなるはずだ。

 病院での実習が始まった直後、りんや直美が面食らったのは、バーンズ(エマ・ハワード)のもとでじっくりと学んできた目指すべき“看護”とは程遠い現状だった。換気のされていない病室。患者が退院するまで洗濯されることのないシーツ。患者の対応もぞんざいで、陰口を叩くことも多い。それでも、看病婦に対する偏見と蔑みの目線に晒されながら、誰からも学ぶことのできない現場で自ら培ってきた経験と技術は簡単に色褪せることはない。フユの教えから得られるものは、これから看護婦として生きていくりんにとって、大きな支えとなるだろう。

 フユのように一筋縄ではいかない手強い上司として、職場で存在感を放っていたのが『あんぱん』(2025年度前期)で主人公・のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が入社する高知新報の編集長・東海林(津田健次郎)だ。その場しのぎの発言やおっちょこちょいな行動で部下の岩清水(倉悠貴)に呆れられている姿も記憶に新しいが、熱血で情に厚いところが魅力的な人物だった。取材や原稿の執筆がうまくいかずに思い悩むのぶと嵩を叱咤激励しながらも、2人を真に思う優しさを厳しい言葉に忍ばせる。特に「猫の手」として重宝していたのぶに対しては、代議士・薪鉄子(戸田恵子)の秘書になるため退職して東京へと旅立つ際に「世間は怖いぞ。妬んだりひがんだりしていろんなことを言われる。おまえの志をへし折ろうとするやつもいる。そんなやつらに絶対負けるな。負けるなよ」と彼らしい言葉で鼓舞した。年老いてからものぶと嵩に会いにいき、最後まで2人の上司として、彼らが信じる“逆転しない正義”を責任持って応援する姿が印象的だった。

 ほかにも、手強い上司が多く登場する朝ドラといえば『虎に翼』(2024年度前期)だろう。主人公・寅子(伊藤沙莉)の前に立ちはだかった上司は数多くいるが、やはり桂場等一郎(松山ケンイチ)の口をへの字に曲げた表情が真っ先に思い浮かぶ。寅子が法の世界に飛び込むきっかけとなった穂高(小林薫)の講義に居合わせていたのも彼だった。その後もことあるごとに寅子とは交わり、彼女が再び法曹の世界に戻ってきた際には裁判官の上司として、真っ向から意見をぶつけあう。男女平等を目指す社会を「時期尚早」と切り捨て、裁判官の立場で司法の独立を訴え、その言動をもって体現する。堅物で自身のスタンスを決して変えることのない桂場は、寅子にとってずっと説き伏せることのできない手強い上司であり続けた。松山ケンイチの確固たる佇まいも相まって、視聴者にとっても大きなインパクトを残すキャラクターとなった。

 フユの“看護婦見習い”に対する冷たい態度は、裏を返すと彼女たちの存在がこれからの医療の世界に大きな変革をもたらすことを予感しているともいえる。新たな風を巻き起こしつつある“看護”の概念と、フユが持つ手術介助の技術があわされば、きっと彼女の予感はより現実のものへと近づくはずだ。果たしてりんは、いまだに心を許していないフユの偽らざる本音を引き出すことができるだろうか。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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