『素晴らしき新世界』の“神キス”に世界が熱狂 ホ・ナムジュンが放つ甘美な色気と吸引力

真っ黒な傘が、スローモーションのなかで生卵を冷徹に遮る。飛び散る破片の向こう側、伏し目がちだった男が、ゆっくりとこちらへ目を上げる。
韓国ドラマ『素晴らしき新世界』の第1話、ホ・ナムジュン演じる財閥3世チャ・セゲが画面に現れた、思わず息を呑むような数秒間。私たちは、あの一瞬のセゲに完全に心を奪われた。直後に「残忍なM&A屠殺者」という冷酷な字幕が踊ろうとも、もはや手遅れだった。出会ったその最初の一歩から、私たちはこの「怪物」の動向に一喜一憂し、その一挙手一投足に甘く胸を締め付けられるようになった。
本作は、Netflixで配信が始まるやいなやグローバル週間ランキングで初登場1位の座にいきなり君臨し、日本でも配信直後から常にトップ層のデッドヒートにピタリと張り付きながら、物語の前半にしてついに堂々の1位へと登り詰めた(※)。300年前の朝鮮時代に「稀代の悪女」と呼ばれたイム・ジヨン演じるカン・ダンシムの魂が、現代を泥臭く生きる無名女優シン・ソリに憑依する。韓国ドラマとしては比較的なじみ深い、王道の時空越えファンタジーラブコメだ。
※以下、『素晴らしき新世界』のネタバレを含みます

朝鮮王朝の側室カン・ダンシム(イム・ジヨン)は、夫以外と内通したという罪で毒殺の刑に処されてしまう。ダンシムが最期に見たのは日食だ。韓国ドラマにおける日食とは、『麗<レイ>〜花萌ゆる8人の皇子たち〜』や『暴君のシェフ』と同様に、「論理的な現在」と「情念渦巻く過去」が衝突し、運命を強制的に書き換えるための神聖なスイッチとして機能している。本作では、ダンシムからソリへの魂の転生を告げる日食の描写は、単なるSF的なギミックではない。
ダンシムが目覚めると、そこは現代の時代劇セットの中だった。ダンシムは売れない女優ソリへと転生し、財閥御曹司3世のチャ・セゲと運命的な出会いを果たす。朝鮮時代と現代で重なるキャラクターが登場し、物語は過去の縁を思わせる。
親しみやすい王道のジャンルにありながら、本作がこれまでの同ジャンルとは一線を画す圧倒的な面白さを放っているのは、イム・ジヨンとホ・ナムジュンという二大実力派による「強者×強者」の構図に他ならない。『ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜』で強烈な悪役を演じたイム・ジヨンと、『YOUR HONOR~許されざる判事~』で歴代級の怪物として名を刻んだホ・ナムジュン。悪役界の精鋭がぶつかり合ったとき、画面上の空気は一変する。

ラブコメの定石である、「初対面の反目」も、この2人にかかればいきなり葉と花を武器にした殴り合うという、過激かつコミカルな乱闘劇へと昇華される。恐ろしいほどの眼光を放つ強者たちが、剣のように花束を振り回し、顔を崩し背中を丸めて泥仕合を繰り広げる。気高く冷徹だったセゲが、ソリの容赦ない攻撃に思わず感情を爆発させ、子どものように花びらを散らして殴り合う姿は笑いを生み出し、開始早々このドラマは面白いと前のめりにさせられる。イム・ジヨンのキュートでコミカルな魅力と、ホ・ナムジュンの鋭さと甘さの絶妙なバランスに釘付けになってしまう。
ソリと奇抜な邂逅を経て、物語は加速する。家庭では過剰なまでの富とそれに比例するような孤独を抱えるセゲ。財閥あるあるの「跡継ぎ争い」渦中で、企業買収をゲームのように冷徹に遂行し、邪魔者は容赦なく切り捨てていく。周囲から「血も涙もない資本主義の怪物」と恐れ慄かれるその佇まいは、凍りつくほどに美しく静謐な色気を纏っている。氷点下の眼差し、短く切り捨てる言葉、感情の揺れを微塵も見せない立ち姿。冬の朝日がガラスに反射し、鋭い光で目を刺す。セゲを演じるホ・ナムジュンという役者の眼差しには、そんな冷徹さと鮮烈さが同居している。



















