『風、薫る』“在宅看護”の難しさが現代に響く “シマケン”佐野晶哉の恋の段取りは空回り

『風、薫る』“在宅看護”の難しさ

 康介(じろう)が何気なく口にする「なんか」という言葉が、りん(見上愛)と直美(上坂樹里)の耳に引っかかる。NHK連続テレビ小説『風、薫る』第44話では、フユ(猫背椿)の家に通うことになった2人が、康介の体調だけでなく、夫婦の間に積もったしんどさにも気づいていくことになる。

 りんと直美は、足を悪くしているフユの夫・康介を看るため、フユの家へ通うようになる。そこで直美が引っかかったのは、康介の「フユなんかとは違うな」という言葉だった。康介はかつて電信の技師をしており、英語にも触れていたという。今は体が思うように動かず、何かにつけて後ろ向きな言葉をこぼすが、その端々には昔の仕事への誇りも見え隠れしている。

 ただ、その誇りは、近くにいるフユを傷つける言葉にもなっていた。「フユなんかとは違う」「私の仕事の話なんか」「看病婦なんか」。自分を卑下しているようでいて、同時に相手の仕事や存在まで軽く見てしまう。康介が抱えるつらさは確かにあるのだろう。だが、それがフユを傷つけていい理由にはならない。りんと直美が気にしていたのは、体の状態だけではなく、そうした言葉が夫婦の間に積もっていることだった。

 フユは日々、康介の世話をしている。食事や水分、身の回りのことを支えながら、不機嫌や弱音も受け止めている。だが、その働きが「看病婦なんか」という言葉で片づけられてしまう。りんと直美が、フユはそんなふうに言われる仕事をしているわけではないと言い切る場面には、2人が看病という仕事の重みを少しずつ理解し始めていることが表れていた。フユがしているのは、ただの世話ではない。康介の体調を見て、暮らしを支え続ける、大事な役割なのだ。

 実際、りんと直美は、康介が昼間に水を飲んでいないことにも気づく。康介の言葉に引っかかりながら、同時に体の状態にも目を向ける。病院ではなく家の中で行われる看護だからこそ、見なければならないものは多い。患者本人の体調だけでなく、家族との関係、生活の癖、言葉の選び方まで、その人を取り巻くものすべてが看護の手がかりになるのだろう。

 さて、その頃、団子屋ではシマケン(佐野晶哉)が別の意味で大奮闘していた。安(早坂美海)が思いを寄せている槇村(林裕太)の兄・宗一と、安を引き合わせようとしていたのだ。ところが、肝心の説明が足りなかったせいで、槇村は自分のお見合いの場だと勘違いしてしまう。槇村家には名前に「一」がつくという話や、文学を目指しているという話で場はそれなりに進むものの、そもそもの目的が共有されていないのだから、うまくいくはずがない。

 これは完全にシマケンの段取りミスである。言葉や知識にはあれだけ細かいのに、人の恋心となると途端に説明が抜け落ちる。しかも槇村からは「男女の情は書けない」とまで言われてしまう。小説家志望のシマケンにとっては、なかなか手痛い一言だろう。恋の機微には弱いが、誰かのために動こうとするところに、シマケンらしい愛嬌がある。

 りんと直美は、康介の体を看るだけでなく、フユが抱えてきたしんどさにも気づき始めている。水を飲んでいないことに気づくのも看護なら、「なんか」という言葉に引っかかるのもまた看護なのだろう。病院の外に出たことで、2人が向き合うものは一気に広がった。患者の体、家族の疲れ、夫婦の間に積もった言葉。その全部を見ようとするところから、りんと直美の看護はまた少し深まっていく。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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