『君のクイズ』中村倫也×神木隆之介らのキャスティングの妙 原作ファンが映画化を分析

『君のクイズ』中村倫也×神木隆之介らの配役

 小川哲の小説『君のクイズ』が、『ハケンアニメ』の吉野耕平監督によって映画となり、5月15日に公開された。『Q-1グランプリ』の初代覇者を争うクイズ番組で起こった奇妙な出来事の真相に迫るミステリで、中村倫也や神木隆之介、ムロツヨシといった演技派の俳優たちが出演している。『君のクイズ』とはどのような物語なのか。映画になったときにどのような見どころがあるのか。

 「問題——」。そうアナウンサーが言って息を吸い、口を閉じた瞬間に「パァン、という早押しボタンが点灯した音が聞こえた」。生放送のクイズ番組の決勝で、正解すれば優勝して1000万円の賞金を獲得できるが、間違えれば即座に失格となる状況で、本庄絆は問題の内容が話される前にボタンを押して答えを言った。「ピンポン」という音が鳴った。正解だった。

 まさかのゼロ文字解答。おまけに問題自体が、本庄絆と対戦していた三島玲央も答えられない難問だったから誰もが驚いた。決勝に残れなかったクイズプレイヤーたちの中には、あらかじめ問題を教えられていたのではとヤラセを疑う人もいた。目の前で優勝をさらわれた三島玲央はもう少し慎重で、いったい何が起こったのかを考えようとした。

 ゼロ文字解答は、本気で優勝を狙っているクイズプレイヤーならまず取ることのない行為だ。間違えるリスクが高すぎるからだ。こっそりと問題を聞いていたから可能だったかもしれないが、ひと声でも聞いてボタンを押したほうが、ヤラセの疑いをかけられずに済むからやはりあり得ない。そうした状況で、本庄絆はゼロ文字解答に挑んで見事に正解を言い当てた。

映画化にあたってピッタリのキャスティング

 どうして本庄絆は『Q-1グランプリ』の最終問題で1文字も読まれていないクイズに正答できたのか? そのような「問題」に三島零央というクイズプレイヤーの主人公が挑むのが、『君のクイズ』という作品のおおまかなストーリーだ。映画では、この三島を中村倫也、本庄を神木隆之介が演じている。小説の描写から浮かぶ2人のイメージを考えるとピッタリのキャスティングだ。

 まず三島玲央。小学生のときにクイズに興味を持ちはじめ、大学ではクイズ研究会に入ってクイズに関する才能を高めてきた。どちらかといえば内省的でクイズに対して生真面目で、『Q-1グランプリ』での出来事についても、ヤラセだと騒ぐのでなく別の可能性を考えることで真相に迫ろうとする。『ハケンアニメ』で天才アニメ監督を演じた中村が演じるに相応しいキャラクターだ。

 一方の本庄絆は、東大医学部に在籍していて並外れた暗記力を誇り数々のクイズ番組で勝利してきた。どこかミステリアスな天才というキャラクターは、『ゴジラ-1.0』で神木が演じた特攻隊崩れの敷島浩一とは正反対だが、若い天才棋士を演じた『3月のライオン』の桐山零の延長として想像できなくもない。あるいは『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(TBS系)でトリックスター的な振る舞いを見せた一十一(にのまえ じゅういち)の延長と。

 そうしたキャスティングから浮かぶイメージを持って読むにしても、自分なりにキャラクター像を思い浮かべて読むにしても、『君のクイズ』はいったんページを繰り始めたら、決して止めることのできない魅力にあふれた物語だ。ミステリという形式自体が謎の提示から探求を経て解答へと至る流れを持って読む人を引き付ける。そこに、クイズプレイヤーはひとつの問題について、どのような思考プロセスをたどって答えているのかといった描写が乗って、いろいろと教えられる。

 三島玲央と本庄絆が激突した『Q-1グランプリ』の決勝で出されて三島玲央が正答した問題に、答えが『深夜の馬鹿力』となるものがあった。伊集院光のラジオ番組の名前だが、この問題を答えられた背景に、三島玲央がまだ小学生だった頃、兄から番組の存在を教えられ、番組の情報に敏感になっていたことがあった。だから問題文に反応できた。

 トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』が正答となる問題に三島玲央が答えられたのも、ちょっとした理由から『アンナ・カレーニナ』について深く考えていた過去があったから。逆に、本庄絆がある問題で「ウィリアム・ローレンス・ブラッグ」というノーベル賞受賞者の名前を答えられたのも、ノーベル賞受賞者をすべて記憶していた上に、自身の経歴に答えの人物と似たところがあったからだ。

 「クイズに正解できたときは、正解することができた理由がある。何かの経験があって、その経験のおかげで答えを口にすることができる。経験がなければ正解できない。当たり前だ」。だから三島玲央は、ヤラセが疑われた『Q-1グランプリ』決勝での本庄絆のゼロ文字解答にも、何かの経験があり知識があったのではと考えたのだろう。それはいったい何なのか。小説で三島は、本庄絆に関わる人たちを訪ね歩き、本庄が過去に出場してきたクイズ番組での言動を徹底的に調べていく。

 人間が作るクイズ番組で、人間が作る問題を人間が解く以上、そこには人間ならではの経験であり記憶であり感情といったものが絶対にうごめいている。それらを少しずつ探り出し、つなぎ合わせていくことでゼロ文字解答ができた真相に辿り着こうとするミステリとしての楽しみを、存分に味わえる展開だ。

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