松田優作×桃井かおりの“暑苦しさ”が愛おしい 1983年の名作『熱帯夜』は心に訴える力がある

名作『熱帯夜』は心に訴える力がある

 松田優作と桃井かおりの「ファッショナブル強盗」。なぜか改造銃をもっている主人公・英二(松田優作)がプラネタリウムで出会った地味なサチ子(桃井かおり)を巻き込んで、彼女の働く金融機関で強盗を働く。

 まんまと大金を手にいれたふたりの仲間に加わったカメラマン・サトル(せんだみつお)はふたりの写真を週刊誌に売って、それが「ファッショナブル強盗」として掲載され世間を賑わす。そんなことをしたらすぐに捕まるに決まっているなんて常識は振りかざすまい。荒唐無稽なファンタジーではあるが松田優作と桃井かおりだから問答無用に説得力がある。とにかくカッコいい。『熱帯夜』は和製『俺たちに明日はない』(1967年)だ。

 英二、サチ子、サトルの3人にさらに仲間が加わる。英二の妹で、のぞき部屋で働いていたマユミ(熊谷真実)とその愛人で片足が不自由なサダヲ(ケーシー高峰)を巻き込んで、大金を抱えた逃避行がはじまった。

 流れ流れて東京から英二の故郷・因島へ。一行を追いかける刑事・石崎(岸部一徳)、サチ子が歌を投稿し続けるラジオのDJ・おすぎとピーコ(本人として出演)となかなか豪華なメンツがそろっている。豪華なのは、それだけではない。日本各地を車でめぐるロードムービーになっている。東京から英二の故郷・瀬戸内海の因島、途中、サダヲの故郷・福島などを回り、ドラマ的には「関東、東海、近畿、中国と広範囲に」わたっていく。令和のいまではこんなにロケはやれないだろう。都会の街の人と車の生々しい風景なども、こんなシーン、どうして撮れたのだろうと思うような鮮烈な画がたくさんある。

 やがて一行は箱根、伊豆方面へーー。第3話で、英二の地元の人たちまで写真週刊誌に載せたサトルを英二がどやしつけるが、サチ子はこうでもしなければ、故郷の人たちが世の中に注目されることはない、と肯定的に捉える。

 そう、登場人物たちは皆、社会の主流からはみ出した者たちなのだ。英二もサチ子もマユミもサダヲも田舎から出てきて都会の片隅で身を小さくして生きてきた。サトルも一流カメラマンにはなれない、しがない三流カメラマンの身の上だ。

 令和のいま地球の温暖化が激しいが、1980年代も熱帯夜が寝苦しいと言われていて、ドラマではニュースで天気予報が流れている。眠れないほどの暑さは、人間の心のうちにたぎる何かであり、持て余したそれをなんとかしたくて、英二たちは犯行に及んでいると解釈できるだろう。青春そのもののドラマだ。

 1980年代を生きた人はタイトルのごとく暑苦しい。でもその暑苦しさが愛おしい。屈折して、暑苦しくて、どうしようもない、どん詰まりな人たち。松田優作と桃井かおりだから、冴えないどころか、やたらとカッコいい。やたらと自然に桃井の肩を抱く松田優作は、いまならセクハラと言われるのだろうかと気になってならないのだが(野暮なツッコミなのは重々わかっている)、冴えない日々を過ごす視聴者がひととき夢を見られる、そんな憧れなのだから、これでいいのだ。

 サチ子は最初、眼鏡をかけていて見た目は冴えないうえ、話し方も途切れ途切れになってしまうことで社会に馴染めずにいた。でも英二と出会い、眼鏡を外して逃亡生活を送ることで、気持ちが解放されたのか、生き生きとしていく。最終的には、再び眼鏡をかけるのだが、眼鏡をかけても魅力的な人物にすっかり変貌している。

 第1話から、英二とサチ子はすっかり恋して濃密な関係になっているのかと思いきや、そう思って疑わないサトルに「いやだ、わたしたちはそこらへんの男や女と思わないでよ。ふたりが清らかだってことを忘れないでちょうだいね。ほんとよ。それ大事なことなんだから」なんてことを言う。「え、そうなんだ」とビックリするのだが、その前にちょっと違うニュアンスのことも言っていて、サチ子と英二が求めているものが何なのか、それを最後まで見届けたい。

 1983年といえば朝ドラことNHK連続テレビ小説『おしん』が大ヒットしていた時代である。経済的に豊かになってきた日本に、橋田壽賀子がこれでいいのかと問いかけるために戦前戦中から現代まで描いた。1年にわたる渾身作のドラマが人気だったとき、フジテレビでは、『熱帯夜』で現代を生きる鬱屈した人々の実情を生々しく映し出した。

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