横浜流星「俺のたった一人の女房」の破壊力 『べらぼう』蔦重を支える“三人の女”の思い

『べらぼう』蔦重を支える“三人の女”の思い

 そうしてビジネスパートナーとしてだけでなく、気持ち的にも本当の夫婦となった蔦重とてい。その夜「良かったな蔦重、よかった……」と言いながら枕を濡らす歌麿(染谷将太)を見て、タイトルにあった三人目の女は「生まれ変わるなら女がいい」と言った歌麿の中にいたのだと思った。

 誰よりも蔦重のそばにいるはずだった歌麿。彼にとって、蔦重は死んでいた心を生き返らせてくれた、ある意味で親のような存在だ。よく無償の愛とは、親から子ではなく、子から親に向けて注がれるものだと言う。親が望むのなら、どんな期待にも応えたい。そして自分のことをいつも見ていてほしい、と願う。そんな幼い子供のような欲求が大人になっても歌麿の眼差しから消えなかったように思う。

 しかし、ここにきて蔦重の隣には母のつよ、そして妻のていが当たり前のような顔をして座っている。「たった一人の母親」「たった一人の女房」。それに対して、歌麿は偽装した戸籍(人別)で蔦重の弟という立場であることを痛感する。文字通り「ニセモノの弟」なのだ、と。

 「もう俺いなくても、この店回るし」なんて拗ねて見せたのも、蔦重の愛情を図らずにはいられなかったから。ともすれば、数多くいる奉公人たちの1人になってしまったような寂しさを抱いていたのだろう。もちろん蔦重としては日本橋進出の「勝ち目」として歌麿を買っているものの、歌麿が欲しかったのは女たちが、難なく手に入れた蔦重にとっての「たった一人の◯◯」になることだったのではないか。

 「めでたい、めでたい」と書くことで、本当にめでたい正月が来るようにと願いを込めて作られた『金平子供遊』で、歌麿がそっと書き換えた「歌麿門人千代女」の名前。その理由を蔦重に問われた歌麿は、「いかにも売れてる感じでめでたくね? 俺に弟子がいるってよ」と答えたが、その真意は……と想像が膨らむ。

 自分にも「たった一人の女」が現れる未来が来るようにと願ったのか。それとも、蔦重の「たった一人の◯◯」になりたかった女のような自分と決別するためか。はたまた、その名前を刻むことで、この世界にその思いが確かにあったことを記し残しておきたかったのか。

 いずれにせよ、歌麿の中で蔦重に向けてきた感情を整理しようとしているようにも感じられた。そんな歌麿の“親離れ”の時が近づいていることにしんみりする一方で、江戸城では田沼意次(渡辺謙)、意知(宮沢氷魚)の姿を、佐野政言(矢本悠馬)、そして松前廣年(ひょうろく)が見つめる。その奥には松前道廣(えなりかずき)、さらには一橋治済(生田斗真)まで登場する。

 治済が笑うほどに、田沼親子に暗い影が迫っているのだと震える。明るい未来が訪れるように「めでたい、めでたい」と書きたいところだが。予告映像を見ると、避けられない痛みが待っているようで、次回が待ち遠しくも苦しい。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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