『あなたを奪ったその日から』が示した家族の選択肢 復讐ドラマの折り返し地点に

『あな奪』復讐ドラマの折り返し地点に

 今作がどんな結末を迎えるか、注目して観ていた視聴者も多くいただろう。謎解きとサスペンス要素は前回までであらかた決着がつき、残されたのは罪と裁き、また復讐ものがどのように完結するかだった。復讐ドラマの展開と場面設定には深い関係がある。紘海がスイッチバックに就職したドラマ後半から、象徴的な意味も含めて、最後の転換を促す装置として、“親を捨てる”意味合いを持つ駅と、坂道を上がるための線路の切り替え方式が前面に出てきたと解釈することが可能だ。

 そのことが意味するのは、復讐ドラマの代替可能な選択肢、世界線を提示することにある。今作の企画を手がけた水野綾子氏は、インタビューで「新しい復讐ものを作る」ことを制作のきっかけとして挙げており、復讐者で加害者である紘海が、自己の加害者で娘を誘拐された被害者である旭と対峙したのが、スイッチバック方式の鉄道駅だったことはきっと偶然ではない。

“予想を大きく超えてきた”北川景子の芝居 『あなたを奪ったその日から』制作陣が語る秘話

『あなたを奪ったその日から』(カンテレ・フジテレビ系)は、食品アレルギー事故で娘を亡くした中越紘海(北川景子)が、加害者である結…

 紘海と旭の間で交わされた会話からわかるように、復讐ものとしての本作の新しさは、一方的に相手を許すことではなく、許せないながらも、代わりに未来を選ぶところにあった。守るべき存在を前にして採った現実的な選択肢を一言で言うなら「責任」になるのだろう。離婚後の共同親権、婚外子や、養子縁組で血縁関係にない者同士が親子になることが認められている昨今、紘海たちが選んだ家族の形は、それなりに納得感のある着地点と感じる。

 もう1人、復讐ドラマを背負っていた人物がいる。玖村だ。梨々子によって人生を狂わされた玖村は、自身の負の感情におぼれ、差し出された手をつかむことができない。因果応報という軸は厳然と存在していて、梨々子はそれを受け入れたが、因果律にとらわれた玖村は堕ちていくことしか選べず、従来の復讐ドラマの帰結を引き受けていたといえる。

 『あなたを奪ったその日から』は、鏡像のような加害者と被害者の姿を通して、親であることの意味、罪を償う生き方に貴重な視座を与えた。カレイドスコープのような人間の心の奥には否定できない感情があって、親子の関係は、それがもっとも強く出てしまうものの一つだ。物語のプロットという仕組まれたレールを走って到達したのが、闇ではなく、ほのかに希望を感じさせる風景だったことを喜びたい。

『あなたを奪ったその日から』の画像

あなたを奪ったその日から

サスペンスフルなストーリーの中で生まれる親子愛を描く物語。『アルジャーノンに花束を』(TBS系)、『砂の塔〜知りすぎた隣人』(TBS系)の池田奈津子が脚本を手がける。

■配信情報
『あなたを奪ったその日から』
TVer、FOD、Netflixにて配信中
出演:北川景子、仁村紗和、平祐奈、阿部亮平(Snow Man)、水澤紳吾、小川李奈、一色香澄、田山由起、内藤秀一郎、原日出子、鶴田真由、大浦龍宇一、中原丈雄、筒井道隆、大森南朋
脚本:池田奈津子
演出:松木創
企画:水野綾子
音楽:村松崇継
主題歌:back number「ブルーアンバー」(ユニバーサル シグマ)
プロデューサー:三方祐人
制作:カンテレ、共同テレビ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/anauba/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/anauba_ktv
公式Instagram:https://www.instagram.com/anauba_ktv
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