“予想を大きく超えてきた”北川景子の芝居 『あなたを奪ったその日から』制作陣が語る秘話

『あなたを奪ったその日から』(カンテレ・フジテレビ系)は、食品アレルギー事故で娘を亡くした中越紘海(北川景子)が、加害者である結城旭(大森南朋)の娘を誘拐し、自分の子どもとして育てるストーリー。秘密と嘘、血の繋がらない親子の愛情が交差するドラマは、キャストによる迫真の演技とあいまって、独自の世界を形づくっている。最終話を前に、今作の企画を手がけた水野綾子氏と三方祐人プロデューサーに、作品やキャストについて話を聞いた。(石河コウヘイ)
一番に伝えたいのは「血の繋がりはたいした問題じゃない」
ーーサスペンスと人間ドラマの両面を備えたオリジナル作品ですが、本作を企画したきっかけを教えてください。
水野綾子(以下、水野):これがやりたいというものが明確にあったというよりは、いくつかの普段から思っているアイデアが合わさってできた感じです。私は、家族のドラマを作ることがわりと多くて、たぶんそれは、自分の家庭環境などへの不満やいろんなことがあってのことだと思うんですけど、家族は血の繋がりよりも過ごした時間でできるものだと思うので、本当の家族に恵まれなくても、他人に救われて他人と家族になることもできる、というテーマの話を作りたいとずっと思っていました。それと、私は、復讐ものがすごい好きなんです。これまでにも作っていますが、復讐ものの結末はわりと同じなんですよね。周囲の人を巻き込み、新たな悲劇を生んで結局復讐者も破滅するものが多いので、そうじゃない結末の新しい復讐ものが作れないかなとずっと思っていたのが、そもそものきっかけですね。それがなぜこの題材になったかと言うと、私が、鉄道好きの親子を見るのが好きで、家が線路沿いであることもあって、子どもに電車を見せて喜んでいる親子を目にするたび、すごくいいなって思っていたので、そんな親子が登場する作品を考えました。
三方祐人(以下、三方):他人の子供を誘拐した女が、その子供を育てる……という企画は、これまでもなかったわけではないと思うのですが、今作はとにかく、北川景子さんが圧倒的なお芝居で、「絶望と大罪を背負った母」をとことんまで突き詰めてくださいました。僕も『梨泰院クラス』などの復讐ものが大好きで、今作は韓国ドラマっぽい要素も多分にあると思うんですけど、最終話のラストは、それらともまた違った、『あな奪』らしい味わいになっていると思っています。
ーー親子愛について、血の繋がらない子ども育てることを通して、何をいちばん訴えたいですか?
水野:血の繋がりはたいした問題じゃない、ということを一番に伝えたいですね。一緒に過ごした時間で、血以上に濃いものは作れると思っています。一方で、血の繋がりにこだわる話もジャンルとしてありますよね。でも、会ったこともないのに、実は自分に子どもがいると知ったときに、そこに何の感情があるのかなとずっと思ったりしていました。他人と一緒じゃないかって。それよりは、血が繋がっていなくても、一緒にずっと住んでいたら家族になっちゃうよね、そっちが大事じゃないですかということを、家族に恵まれない人に伝えたいです。
ーー今までの月10ドラマにはあまりなかったタイプの作品という印象を受けています。「カンテレ月10ドラマ」というブランドはどの程度意識されていますか?
三方:各プロデューサーが一生懸命やってきた結果が、ブランドになっていると僕は理解しています。繊細な作業をして、泥くさくしがみついて、最後までこだわることを一生懸命やりさえすれば、カンテレドラマっぽさにはなると思います。あくまで現場に向き合うことが基本です。カンテレのブランドがあるから、と気負うことはないです。
ーー今作には、母親の強さや弱さ、また、女性の怖さがふんだんに盛り込まれています。現在の社会で女性が置かれた状況を示唆する言葉もありますが、ドラマを通してどんなメッセージを届けたいですか?
水野:「女性」というところではあまり意識はしていないですね。今作では、「母親」の普遍的な部分を描きたいと思いました。父親もそうですけど、親が子を思う気持ちは同じなので、どんな時代でも刺さるテーマのものにしたいと思っていました。どんなに常識的な人も、子どものことになると狂ってしまう。第10話に「子ゆえの闇に迷う」という台詞があるんですけど、まさにそれだなと。砂羽(仁村紗和)の上司の元木(村岡希美)に関しては、彼女のように「女性だから」と頑張ってきたのに、悲しい末路になる姿を見てきたので、そこは現代の女性を反映していると思います。
ーー第7話で美海(一色香澄)が紘海に「お母さんに似たかった」とため息をつくなど、母と娘のリアルな事情もベースになっていますか?
水野:そこは“親子あるある”ですよね。お父さんやお母さんに似たかったというのは、親子の間で必ず一度は交わす言葉だと思います。美海を誰が演じるかは台本ができた段階で決まっていませんでしたが、(美人な)北川さんをお母さんにした以上は、この台詞は入れたいと思っていました。でも紘海をドキッとさせたいというのが、あのシーンで意図したところではありますが……。
ーー主演の北川景子さんが過去最高といえるくらい素晴らしい演技をされています。オファーの経緯を教えていただけますか。
水野:やっぱり女優としてシンプルに素晴らしいからです。この役は、母親の部分を強く出す役なので、そこに説得力は絶対必要だなと思っていました。北川さんは、お子さんがいる女優さんの中でも「きちんと子育てしている」印象がありました。母親としての説得力と、女優さんとしての魅力ですね。
三方:今回は狂気にふりきった演技も観てみたいと思って。過去の出演作でも片鱗はありましたが、この作品で、北川さんがふりきったときにどうなるんだろうというのはちょっと予想がつかなくて、ファン目線で恐縮ですが、「北川さんが中越紘海を演じるのを、めちゃくちゃ観てみたい」と思ったのが、オファーした一番の理由です。
北川景子、家庭と仕事の両立は“なかなかハード” 「“運”と“やる気”がいまに繋がっている」
カンテレ・フジテレビ系月10ドラマ『あなたを奪ったその日から』で、北川景子が連続ドラマの現場に戻ってきた。第2子出産後、初の連続…ーー北川さんご自身も、かなり意欲的に取り組まれているように感じました。
水野:そのことを口に出したりはされていませんが、北川さんは、いきなり初日からすごいお芝居をしてこられて、お芝居ですべて表現してくださったと感じました。ちらっとおっしゃっていたのは「ドキュメンタリーだと思ってやります」ということですね。リアリティを持って演じてほしいとこちらからも事前にお話はしていました。
三方:「リアリティを突き詰めたお芝居をしたい」と北川さんはお話されていて、こちらもそれを撮りこぼさないようにしないとですね、と、松木創監督とはお話ししていましたね。基本的には、北川さんが作る紘海という人物が、ピントがずれていないどころか、むしろ予想を大きく超えてきた感じです。「こうしてほしい」とお願いすることもなく、脚本の行間までしっかり理解しているからこそできるお芝居を、毎話見せていただいていると思いました。
ーー相手役の大森南朋さんは、演技の安定感と一貫した説得力を感じます。大森さんをオファーした理由をお聞かせください。
水野:大森さんは、すごく色気があって、ドキドキさせる人だなと。観ているだけで素敵だなと思うし、良い人そうだなと思っていました。大森さんが演じる旭は、最初は悪人に見えないといけないんですが、徐々に善人の部分が出てくるんです。そうなった時に、紘海は子どもを誘拐したことを後悔せざるを得ない。そう思わせるような心から申し訳ないと思える表情が、大森さんの場合は想像できたんです。それで、大森さんにお願いしたいと思いました。
三方:大森さんは唯一無二のお芝居をされる人で、回想シーンの「仕事なんてしてらんないよ、こんな天気の良い日に」の顔も、本当に憎たらしいじゃないですか(笑)。顔の筋肉の構造を全て理解されていて、自由自在にそれを動かし、表情を無限に作れる方、という印象があるんですよね。悪人にも見えるし、善人にも見える。あらためて仕上がったものを観ても、やっぱり大森さんじゃないと結城旭は完成しなかったな、と思いました。
ーー第9話で旭は紘海が事故の遺族だと知りますが、視聴者の間で、旭が紘海の存在に思い至らないことを不思議に思う意見がありました。なぜ旭は、紘海が事故の遺族だと気づかなかったのでしょうか?
水野:遺族の顔を知らないのはおかしいんじゃないかというご意見はいっぱいありました。あんなひどい会見を観て、紘海は、誠意がない人間からの謝罪は受け付けなかったんです。そういうことなので、紘海と旭は、加害者と遺族として会っていないですし、顔もリアルに見てないという設定でした。
三方:結城旭を断罪した週刊誌などメディアには、被害者一家、つまり皆川家の写真は出ておらず、写真は、砂羽がこっそり葬儀で撮影したものだけ、それも世に出ていない、という設定でした。そこに引っかかってしまった人が多かったのは、もう少し説明した方がよかったなと思いました。
水野:「賠償金を受け取らなかった」という台詞はあるんですけど、顔を見ていないことは別のところで伝えるべきだったというのは、反省点としてあります。

























