『あんぱん』で描かれた象徴的な“正義の死” 千尋と次郎の死が与えた深い喪失感

『あんぱん』で描かれた象徴的な“正義の死”

 のぶにとって正しかったはずの戦争は、空襲の焼け跡を目にすることで砕かれ、敗戦がそれに追い打ちをかけた。象徴的な“正義の死”は、次郎の逝去という個人的な喪失体験を通じ、具体的な輪郭をともなった悲劇となってのぶを襲う。

 夫の死に目に会えたのぶは、ある意味で幸せといえる。けれども、のぶには教師として間違ったことをしたという後悔があり、次郎の死によって、その後悔が悲しみとともに突き刺さる。記憶を写真から取り出すプロセスは、“愛国の鑑”だったのぶが、夫や息子をなくした多くの国民と同一線上で生きていることを、自身に認識させるものでもあった。

 第62話で、柳井家の女中のしん(瞳水ひまり)が涙をためて切々と語る場面があった。台詞は少ないながらも、柳井家の一員として嵩や千尋を見守ってきたしんの言葉は、無名の人々の思いを代弁し、戦争の罪を告発する慟哭だったと感じる。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる