『あんぱん』中島歩の魅力が凝縮された大人の男 次郎はのぶと視聴者の“心の支え”だった

戦争を丹念に描いてきたNHK連続テレビ小説『あんぱん』の世界が、ついに終戦を迎えた。御免与国民学校で教師として働き、“愛国の鑑”を自身に課していたのぶ(今田美桜)は、自身が信じ、子どもたちに教えてきたこととは逆のことを教える立場になった。大きな戸惑いを抱えることになっても無理はない。そんなのぶの精神的支えになっているのは、肺浸潤で入院中の次郎(中島歩)だった。

次郎はのぶにとって、視野を広げてくれる存在だった。はちきんで男まさりなのぶに、最初に夢を持てと視野を広げる声をかけてくれたのは、のぶの父・結太郎(加瀬亮)だ。のぶは結太郎の教えの通り、夢を探し続けるも、成長するにつれ「おなごだから」という言葉で生き様を否定されることも増え、進学した女子師範学校では忠君愛国の精神を叩き込まれ、戸惑うことも多かった。豪(細田佳央太)の出征をきっかけに戦争への意識を変えざるを得なかったのぶは、自身の考えを嵩(北村匠海)からも否定されてしまう。夢を持って邁進してきたはずののぶだが、風を切って思うままに走ることができない。時代がそうさせてくれない。次郎に出会う前ののぶはどんどん抑圧され、自分らしさを失いかけているように見えた。
そんなのぶを次郎はゆっくりと解きほぐしてくれた。出会いとなったお見合いでは、2人はほとんど仕事の話をしていた。のぶは、次郎が結太郎と面識があることで、次郎を通して自分の存在を丸ごと肯定してくれた結太郎の存在に触れていたのだろう。そして、次郎がかけた「終わらない戦争はありません。のぶさんは、この戦争が終わったら何がしたいですか?」という問いは、軍国主義に染まったのぶの考えを優しく少し遠くの未来へと飛ばしてくれる言葉だった。夢を叶えて教師になり、愛国心を子どもたちに教えることが自身の役目だと考えていたのぶにとって、新たな夢への意識を持たせてくれる言葉だった。

次郎と過ごすようになったのぶは、公私のバランスを上手に取れるようになったのだろう。家族の前ですら教師として、“愛国の鑑”として生きなければならなかったのぶが、やっとその違和感や罪悪感のようなものを口にできるようになった。次郎の前でなら抱えているものを降ろせる。そんな感覚だったのだろう。次郎と一緒に居る時間は、何にも縛られない本来ののぶそのものとして、生きることを許せる時間だったのだ。嵩が赤いハンドバッグをのぶにプレゼントし、いつか銀座の街を一緒に歩きたいと、今ののぶからは見えない未来を提示する一方で、次郎はのぶと共に新しい未来を見ようとしていた。軍国主義に染まり切っていたのぶが、嵩の言葉ではなく次郎の言葉に心を動かされても無理はない。この違いこそが、次郎の魅力といえるだろう。




















