配信時代におけるアドベンチャー映画の成功とは? 『ファウンテン・オブ・ユース』から考察

『ファウンテン・オブ・ユース』の成否を考察

 『インディ・ジョーンズ』シリーズは、スティーヴン・スピルバーグ監督が、過去の「連続活劇」ジャンルを映画界に蘇らせ、危機また危機の娯楽エンターテインメントをより洗練させたかたちで観客を魅了するといった、明確なコンセプトがあった。だからこそ観客は、まるでアトラクションに乗っているかのようなスリリングな体験と、宝探しの興奮を一体化させた娯楽表現に魅了されたのだ。

 しかし本作の作り手たちは、そういった作品構造自体には思いが至っておらず、さまざまな場面で『インディ・ジョーンズ』風に見える演出や趣向を漠然となぞっているだけに見える。その点で本作の娯楽表現は、焦点が定まらないものになっていると感じられるのである。

 ジョン・クラシンスキーとナタリー・ポートマンというキャスティングも、娯楽に特化した内容にはまっていたとは言いづらいかもしれない。クラシンスキーは、ハリソン・フォードやニコラス・ケイジほど強い個性を放つスターではなく、ナタリー・ポートマンは本人から染み出してくる知性と年齢なりのしっとりとした魅力を放ちつつも、本作のような快活なアクション映画には、やや相性が悪いように感じられる。そのなかで唯一、気を吐いていたといえるのは、ルークを追う謎の女性を、機敏な動きやケレン味たっぷりで演じていたエイザ・ゴンザレスである。

 Netflixが配信した大ヒット映画『レッド・ノーティス』(2021年)を思い出してほしい。この作品は、本作のように批評家の評判がすこぶる悪く、奥行きがある作品とは到底言えない内容ではあったが、ライアン・レイノルズ、ドウェイン・ジョンソンなどのキャストを揃えて、ギャグを満載させた内容が、一般の観客の評価を勝ち得たのである。

 両作が同じケーキだとすれば、『レッド・ノーティス』はその上にイチゴを乗せただけのようなものだ。しかし、それだけの違いで観客の反応が大きく違ってしまうというのも現実なのだ。映画作品としては大きな評価はしにくい『レッド・ノーティス』だが、配信作品という枠内では、そのライトなテイストが奏功する場合があるということだ。

 若さの泉がもたらす「永遠の若さ」という超常的な力に大きな代償がともなうというのは、本作のストーリーのなかでテーマ的葛藤になり得るポイントだ。本作のクライマックスでは、主人公ルークに厳しい選択肢が与えられることになる。だが、ルークはもともと“若さ”に特別な思い入れを持つキャラクターではない。そのため、この葛藤にそれほど強い意味が込められていないというのも、プロット上の大きな問題である。

 対して『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』では、「聖杯」の起こす奇跡を巡って、それまで描かれていた主人公と父親との関係、そしてシリーズを通して戦ってきたナチスとの緊張関係もクライマックスに活かされている。本作でも、ルークが妹のシャーロットや甥との関係や、企業家の傲慢さが描かれるものの、それが脚本上のピークに向けて効果的なドラマを醸成していたとまでは言えないのではないだろうか。

 配信時代に、『インディ・ジョーンズ』シリーズが生み出したような“魔法”を再現するには、どうすれば良いのか。それは、作り手の作家性を「アドベンチャー」というフィールドで発揮する策をどのように立てるのかという点に尽きるのではないか。『インディ・ジョーンズ』シリーズには、冒険活劇への情熱、他国や外国人への文化的な興味、邪悪な思想への怒りなど、スピルバーグ監督自身の作家性が、そのまま作品の興奮や奥行きに直結していたといえる。

 対するガイ・リッチー監督も、本作でイングランドを魅力的に映し出し、犯罪組織の凶悪さや富裕層の具体的な描写などをおこなったように、決して能力の低い監督ではない。とはいえ、『インディ・ジョーンズ』型のアドベンチャー映画というフォーマットで勝負するのであれば、ガイ・リッチー監督の個性を活かした綿密なプランや、演出上の“冒険”が必要だったのではないだろうか。

 Appleスタジオの作品は近年、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023年)や『ナポレオン』(2023年)などに代表されるように、老舗の映画スタジオよりも“映画らしい映画”、作家性を前面に押し出す内容の作品を手がけている。だからこそ本作『ファウンテン・オブ・ユース 神秘の泉を探せ』にも、ガイ・リッチーらしさを期待していたところがある。Appleスタジオには、本作での経験も活かしつつ、娯楽に特化した映画タイトルでも、是非とも傑作を数多く生み出してほしいところだ。

■配信情報
『ファウンテン・オブ・ユース 神秘の泉を探せ』
Appe TV+にて配信中
出演:ジョン・クラシンスキー、ナタリー・ポートマン、エイザ・ゴンザレス、ドーナル・グリーソン、スタンリー・トゥッチ
監督:ガイ・リッチー
脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト
写真提供:Appe TV+

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