配信時代におけるアドベンチャー映画の成功とは? 『ファウンテン・オブ・ユース』から考察

『インディ・ジョーンズ』や『トゥームレイダー』、『ナショナル・トレジャー』シリーズなどをはじめとする、人類の歴史的遺構を探索したり、財宝を悪漢と奪い合うアドベンチャー映画は、多くの観客の冒険心や夢、興奮をかき立ててきたジャンルだ。
Appleスタジオ、スカイダンスメディアなど大手スタジオが製作に加わったAppleオリジナル映画『ファウンテン・オブ・ユース 神秘の泉を探せ』は、『スナッチ』(2000年)や『アラジン』(2019年)などを手がけたイギリスの個性派、ガイ・リッチー監督が、ジョン・クラシンスキーとナタリー・ポートマンをキャストに、このジャンルに挑戦した冒険活劇である。
豪華な座組や、世界を舞台にするジャンルとしての規模の大きさから、多くの観客の期待を高めていた本作、『ファウンテン・オブ・ユース 神秘の泉を探せ』は、Apple TV+でリリースされるや多くの視聴数を稼ぎ出している。とはいえ、アメリカの大手批評プラットフォームでも、批評家、一般観客スコアともに厳しい結果が出ているのが現状だ。少なくとも本作は、過去の同ジャンルにおける大ヒットシリーズに並ぶ評価は得られていないというのが、正直なところなのである。
ここでは、そんな本作の内容を、『インディ・ジョーンズ』シリーズなど他作品と比較しながら、その真価や否定的なポイントを整理しつつ、配信時代におけるアドベンチャー映画の成功について考えていきたい。
本作は、世界を巡って財宝を求め冒険するという内容ながら、基本的には肩肘はらず、軽快なテンポで見せていくライトなテイストの一作だ。ジョン・クラシンスキー演じる元考古学者のルークと、ナタリー・ポートマン演じる美術館学芸員の兄妹が、亡き父の遺志を受け継ぎ、過去の遺物を追ってロマンある冒険を繰り広げる。
冒頭では、歴史的な絵画をめぐる、タイ、バンコクでの攻防が描かれる。スクーターで市場の喧騒を駆け抜けるという、お約束の演出から、バンコク最古にして最大のターミナル駅であるフアランポーン駅の構内や駅のホームまでをスクーターで走り抜けるといった、常識を外れたシーンが楽しい。ここで『インディ・ジョーンズ』のような主人公ルークの破天荒な性分が紹介される。
その後ルークはロンドンで、学芸員として働く妹のシャーロットに久しぶりに会い、彼女を「若返りの泉(ファウンテン・オブ・ユース)」探しの一員に加えようとする。ルークら数名の調査チームは、病によって余命の短い富豪(ドーナル・グリーソン)をスポンサーに、世界のさまざまな伝説や伝承で語られてきた、永遠の命を得られるという泉を探していたのだ。
神によって隠されているといわれる若返りの泉は、その超常的な力への到達を長年にわたり阻止してきた秘密組織「道の守護者」によって守られているという。ルークやシャーロットらは、『ダ・ヴィンチ・コード』よろしく絵画に隠されている暗号を読み解き、謎の女性エスメ(エイザ・ゴンザレス)などの妨害に遭いながらも、泉への道を進んでいく。
本作ではイングランド各地や、ウィーンの「オーストリア国立図書館」、沈没船が眠る海底、バチカン市国、そして若返りの泉が隠されているとされる場所など、世界各国が舞台となる。日本でも大きなヒットを記録した『教皇選挙』(2024年)に出演していたスタンリー・トゥッチが、バチカンのシーンで演技しているのは面白いポイントだ。オーストリア国立図書館での立ち回りは、古い書籍が並ぶ空間で格闘するという、ミスマッチな取り合わせがユニークである。
とはいえ現代の作品としては、各国の描写に先入観が強く、具体性に乏しいのも確かだ。例えばロンドンではイズリントンのパブやイーストエンドのリージェンツ運河沿いの古い倉庫が印象的に撮られていたり、リヴァプールでは高層ビルからの宮殿を望む、現代と歴史の流れを同時に感じさせる対比構造が映し出されるなど、さすがにイングランドでの描写には工夫した撮影方法や、内容的にも文化的な解像度が高い。だが一方でタイやオーストリアなどの国では観光的な場所をその場で撮影しているだけに見えてしまうのである。この明確な差異からは、監督やスタッフが他国に対して観光以上の興味がないのではと感じられてしまう点だ。
また、オーストリアで歴史的な建造物の床に穴を開けて脱出する場面は、やはりヴェネチアの教会の床に穴を開ける『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)の描写の模倣であるだけでなく、その類似性があくまで表面的なものでしかないというのも、残念なポイントだ。