芳根京子のなつ美が素晴らしすぎる! 新婚ラブコメで終わらない『めおと日和』の尊さ

家族の中で愛情たっぷりに育てられたなつ美は、幼さゆえの純粋さだ。一方、瀧昌は14歳のときに両親を亡くし、親戚の家で辛い目に遭ってきたための心の武装としての純粋さだ。
2人にとって、互いを下の名前で呼ぶだけでも勇気の要ることだったが、特に瀧昌にとっては官位や役割でなく、「下の名前で呼ばれる」ことは、14歳のときに両親を亡くして以降、「もう誰にも呼ばれないと思っていた」愛情を感じる行為で、自らの“個”の確認でもあった。
こうして、ピュアな2人のおままごとのような新婚生活は、ゆっくりと一歩ずつ「家族」の生活に変わっていく。

瀧昌から「秘密の場所」として、瀧昌が幼い頃に忙しい父が連れて行ってくれた蛍の見える小川の存在を聞くと、「来年も再来年も見に行きたい。我が家の恒例行事にしましょう」となつ美が提案。上官から背広を作るよう言われた瀧昌となつ美はテーラーに行き、留守番の小さな男の子の接客を受けるうち、2人の将来の子どもや家族像を妄想する。
しかし、2人の距離が近づき、「夫婦」に、「家族」になっていくほど、一緒にいられる時間の短さを痛切に感じ、別れがつらくなっていく。
2人は写真を撮るが、軍事秘密があるため、なつ美は瀧昌に次はいつ出発するのか、いつ出港するのか、そしていつ戻ってくるのか聞くことができない。そんな中、瀧昌の出発が明日と知ったなつ美は努めて明るく振る舞うが、「寂しい」という言葉と共に涙が溢れてしまう。
そんななつ美を励ます言葉を知らない瀧昌は、「両親の真似」として、なつ美に髪を切ってくれと言う。それは、「後ろ髪をひかれる思いを断ち切る決意と、必ず帰るという約束」だった。一方、なつ美は瀧昌に「武運長久」の意味を持つトンボ柄のカフスを渡すのだった。
本作がただの昭和のピュアな新婚ラブコメで終わらないのは、2人の時間が常に期限付きの切なさを伴うためだろう。時代は日本がどんどん軍国主義に走り、国際的に孤立し、太平洋戦争に向かっていく頃。そのきな臭さや不穏な空気は、実は令和の今にも似ている気がする。

ウクライナやパレスチナ・ガザ地区、アフガニスタン、シリア、ソマリアなど、世界各地で紛争が起こり、日本もまた企業がイスラエルやロシアを支援したり、日本国憲法が変えられようとしていたり、戦争に向かいつつある不穏さを感じている人も多いだろう。
そうした危うさを孕む現在だからこそ、ささやかで平和で幸せな時間の尊さが感じられるし、そんな2人の時間がずっと続いてほしいと願う。そして、どんな時代、場所、状況でも、そこで泣き、笑い、懸命に生きる等身大の市井の人を魅力的かつ自然に演じられる芳根京子によって、物語の世界観がいつでも今を生きる私たちの物語と重なるのではないか。
本作の脇には、『てるてる家族』『おひさま』『スカーレット』『カムカムエヴリバディ』の紺野まひるや、『ちりとてちん』『ひよっこ』の和久井映見、『虎に翼』の戸塚純貴、『まんぷく』『らんまん』の前原滉、『カーネーション』『ひよっこ』の小島藤子など、歴代朝ドラ俳優陣も多数出演しているが、そこにもドヤ感やあざとさがなく、朝ドラの香りをさりげなく漂わせるのが好ましい。
ドラマにスピード感や刺激、リアリティ、情報量、社会的意義などが求められることの多い今、ゆったりした時間の流れとシンプルな王道展開ながらも、退屈さを感じさせない本作は、意外とありそうでなかった温故知新の物語かもしれない。
西香はちによる同名コミックを原作としたハートフル・昭和新婚ラブコメ。昭和11年を舞台に交際ゼロ日婚からスタートする、歯がゆくも愛らしい“新婚夫婦の甘酸っぱい時間”を丁寧に描く。
■放送情報
『波うららかに、めおと日和』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:芳根京子、本田響矢、山本舞香、小関裕太、小宮璃央、咲妃みゆ、小川彩(乃木坂46)、戸塚純貴、森カンナ、高橋努、紺野まひる、生瀬勝久、和久井映見ほか
原作:西香はち『波うららかに、めおと日和』(講談社『コミックDAYS』連載)
脚本:泉澤陽子
音楽:植田能平
主題歌:BE:FIRST「夢中」
プロデュース:宋ハナ
演出:平野眞
制作協力:FILM
制作著作:フジテレビ
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