『対岸の家事』が描いたそれぞれの“ロールモデル” “対岸にいる”陽子が礼子に伝えた言葉

『対岸の家事』それぞれの“ロールモデル”

 キャリアのために男性の何倍も努力して働き、男性と比べて明らかに大きなハンデを乗り越え女性初の管理職となり会社に貢献し続けていた陽子。それでも独身で子育て経験がないからという理由で「時代遅れ」という一言で片付けられ、「ロールモデル」にはふさわしくないとみなされる。

 かと思いきや、当の本人としてはキャリアプランはすっかり狂い日々必死にタスクをこなしている感覚の礼子が、時短勤務などの制度を使って2人の子どもを育てながら働くワーママとして「今っぽいロールモデル」だと持て囃される。

 勝手なものだ。こうやって見るといかに「ロールモデル」という言葉が体良く便利に用いられるものの、その実、意味するところは簡単に移ろいゆくものであるかがわかる。詩穂が言う通り、“「ロールモデル」という形で他人に勝手に役割を押し付けられるのは違う”とはまさにその通りだ。

 礼子が講演会で話した率直な語り口には、好き勝手に役割を求め押し付けてくる外野に惑わされずに、自分を見失わないようにあろうとする実直さが滲み、本当に胸を打たれる。礼子のことを「先輩はもう1人の私。キャリアを中断せず階段をどんどん登っていくもう1人の私。だから眩しかった」と言う言葉は、きっとお互い様なのだろう。そしてどんな理不尽も乗り越えキャリアを駆け上がった先輩を守ろうとするリスペクトが滲む。

 「私は誰のロールモデルになるつもりもない。私は自分の選んだ道を進んでるだけです。一人ひとりが自分にとっての、自分だけのロールモデルを見つければいい」。この言葉を新人のうちに聞けたこの講演会の参加者たちは幸せ者だ。

 それぞれに“自分の選んだ道を進んでいる”中で疎遠になってしまっていた“対岸にいる”礼子に、陽子が何年越しの「おめでとう」を伝えられて良かった。どんな道を選んだって思い通りにはいかないしままならないことだらけで、種類は違えど様々な苦労がありながら、それぞれの持ち場で一生懸命諦めずに生き、足掻いてきた者同士だからこそ、互いの奮闘を讃え合える。自分が選べなかった道を妬んだり羨むばかりでなく、綺麗事ではないそれぞれの苦労に思いを寄せられたら。持っているものも持っていないものもそれぞれの選択の結果で、その選択は必ずしも自分が望んだものばかりでなくとも、その裏にある葛藤や悩みや迷いは決して対岸ではなく、実は隣合わせにあることに気付けるのかもしれない。

『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』の画像

火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』

朱野帰子による小説『対岸の家事』を原作としたヒューマンドラマ。専業主婦の主人公・詩穂が、生き方も考え方も正反対な「対岸にいる人たち」とぶつかり合いながら、自分の人生を見つめ直していく模様を描く。

■放送情報
火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:多部未華子、江口のりこ、ディーン・フジオカ、一ノ瀬ワタル、島袋寛子、田辺桃子、松本怜生、川西賢志郎、永井花奈、寿昌磨、吉玉帆花、五十嵐美桜、中井友望、萩原護、西野凪沙
原作:朱野帰子『対岸の家事』(講談社文庫)
脚本:青塚美穂、大塚祐希、開真理
プロデューサー:倉貫健二郎、阿部愛沙美
演出:竹村謙太郎、坂上卓哉、林雅貴
編成:吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
©TBS
©朱野帰子/講談社
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/taigannokaji_tbs/
公式X(旧Twitter):@taigan_tbs
公式 Instagram:taigan_tbs
公式TikTok:@taigan_tbs

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