『いつかは賢いレジデント生活』が現代人に求められる理由 痛みを知る人の言葉の重み

『いつかは賢いレジデント生活』は、2020年にスタートした『賢い医師生活』シリーズのスピンオフドラマだ。医師として自立していたオリジナルのユルジェ病院の主人公5人組に対し、今回の主人公たちは、経歴も性格もまるで違うも医療従事者としても社会人としても未熟さだけは共通しているレジデントたちだ。
その4人ーーオ・イヨン(コ・ユンジョン)、オム・ジェイル(カン・ユソク)、ピョ・ナムギョン(シン・シア)、キム・サビ(ハン・イェジ)が、ユルジェ病院の分院・鐘路ユルジェ病院の産婦人科を舞台に、教授たちを怒らせ、先輩や看護師たちをウンザリさせながら目の前の患者のために悪戦苦闘する日常が描かれている。

韓国では、インターンを経て国家試験に合格し、希望する診療科で4年間勤務して初めてレジデント(専攻医)になる。言うなれば、社会人としては新米で、医師としても若手ではあるものの、インターンよりは実地経験のチャンスがあり、期待されたポジションだ。ところが、患者を前に4人は終始じたばたしっ放しだ。
オ・イヨンは病院勤務ののち、裕福な父親に開業を約束されたものの、アクシデントでその道が断たれてしまった。あちこちの病院を転々とし、自身も借金まみれになったまま鍾路ユルジェに出戻った曰くつきのレジデントだ。「自分はいずれ辞める」と無気力なイヨンは、あるとき、手術の縫合の際に切り離した糸を執刀医のソ・ジョンミン教授(イ・ボンリョン)から託されるが、ゴミ箱もなく、とまどったまま手術台に置いてしまい教授に睨まれる。手術用マスクで顔が隠れているものの、困惑とふて腐れが入り混じった眼差し(コ・ユンジョンの感情表現が実に秀逸だ)で握りしめた糸を見つめるシーンは、「どうしていいか分からなくて最悪な手段を選び、結果叱られる」という“若手あるある”で、思い当たるふしのある視聴者も多いのではないだろうか。
かと言って、しゃかりきに頑張っても結果が出ない。そしてレジデント生活は決して華々しくもないというのも、シビアな現実だ。オム・ジェイルは明るい性格でやる気にみなぎっている。一発屋アイドルから一念発起してレジデントになるなど有能ではあるが、先走りし過ぎて誤診をし、患者を不安にさせたり、先輩から大目玉を食らったりする。ピョ・ナムギョンはおしゃれも恋愛もしたい若者らしいパッションに満ちていて、医師になれば華やかな暮らしができるのではと踏んでいたが、現実は「こんなはずじゃなかった」の繰り返し。身なりにも気を遣えず、彼氏とも上手く行かず、コミュニケーションの取れないまま教授と患者に振り回される。

こんなふうに一年目のレジデントたちは、理想と現実のギャップで失敗と挫折を繰り返すが、医療現場での間違いはしばしば取り返しのつかない事態を呼ぶ(おそらくゆえにシビアで叱り方がきつくなるのだろう)。ならば人間に比べて失敗などの揺らぎがないロボットやAIがいいだろうか。レジデントの1人、キム・サビは通称“AI型模範生”。鍾路ユルジェ病院開院以来初めて、自ら産婦人科を選んだ成績1位のレジデントだとみんなから期待された。ところが、病気で弱っている人の心の機微が分からない。四角四面に教科書で読んだデータや実験結果の話で患者を説得しようとしてしまい、不信感を抱かれてしまうのだった。
今回クリエイターとして参加しているプロデューサーのシン・ウォンホと脚本家イ・ウジョンはこれまで、『賢い医師生活』シリーズのみならず、登場するキャラの過去と現在を交差させる青春もの『応答せよ』シリーズ、受刑者たちの風変わりな交流と成長を描く『刑務所のルールブック』などでもタッグを組みヒットさせてきた。2人は、感情や環境によって揺れ動き変化していく人間を描く手腕に卓越したものがある。ドラマという長いシリーズものを使い、ある1人の人間が様々なかかわりによって変化したり、また揺り戻されて自分の世界に籠ったり、しかしまた自己の殻を破り、静かにかつ着実に成長していくキャラクターでファンの心をつかんできた。だからこそ、いつか賢い名医となるはずの4人のおぼつかない歩みを、暖かさとコメディをとり混ぜて描くために、2人のプロデュースが不可欠だった。
今作で演出を手がけたイ・ミンス監督が明かした「医療現場の中で唯一、命が誕生する科。赤ちゃんが生まれて家族が作られ、年を取り愛する人が去る産婦人科の話は人生史と最も似ている」と語る製作意図(※1)のように、並大抵ではいかない医師という職業の中でも、改めて産婦人科医たちの営みから人生において学ぶべきことは多い。みな泣きながら生まれてきて、結局息を引き取る瞬間まで1人では生きられない。自立して生きていると思っていても、誰かの助けは借りなければならない瞬間が何度もやって来るのだ。




















