『対岸の家事』当事者を追い込む“悪気ない”言葉 田辺桃子が“闘うプリンセス”に

『対岸の家事』“悪気ない”言葉の加害性

 そして、厄介なのは、周囲は“悪気ない”言葉で当人を追い込んでいく。この“悪気のない”善意の連鎖によるお節介ほど不躾で、その矛先を向けられた相手を苦しめるものはない。晶子の場合はありがちな義母からのプレッシャーのみならず、病院に通う高齢患者たちからの詮索や余計なアドバイスが連日待ち受けているのだ。彼女の口から「今は子どもを産むことが私の仕事なんです」という言葉が出るほどまでに。最も肝心の本人の希望を置き去りに繰り広げられるデリカシーのない境界線を超えた押し付けには、晶子も相当精神をすり減らしたことだろう。

 そんな晶子にとって詩穂の「ここにいちゃダメ。出よ、今すぐ、ここから」と言いながら駆け出し導いてくれた手はどれだけ心強いことだっただろうか。自分が傷ついているという気持ちにも蓋をして、周囲の“善意の強要”に応えなければならないと思い込んでいた晶子にとっては「だって晶子さんは傷付いてるじゃないですか。そういう人からは逃げてもいいんです」という真っ直ぐな詩穂の言葉にどれだけ救われたことだろう。“傷付いている”と言葉にしてもらえたことで癒える傷だってある。そして、父親の元から逃げ出し「今は幸せ」とはっきり答える詩穂の姿はどれだけ晶子を励まし勇気づけただろうか。

 そういえば、詩穂の「許さなくていいです」という言葉を意外そうに受け取っていたのは中谷(ディーン・フジオカ)も同じだ。「近くても遠くても僕は実家に頼るつもりはありません」「母のことが許せない」と断言する中谷の気持ちを、詩穂は当たり障りのないくだらない正論でねじ伏せることも、 “べき論”で諭すこともなかった。それだけで“傷付いた当時の自分”の感情をそっと撫でられたような気がすることだろう。

 センセーショナルに人の野次馬心を煽る見出しが並ぶ週刊誌を病院の待合室から撤去し、「もっと見るべきもの」としてガーデニングや釣りなどの趣味雑誌を陳列する晶子は、まさに“闘うプリンセス”だった。妊活以外に自分が病院の役に立てるポイントをしっかりと伝える晶子の姿が本当に生き生きしていて眩しかった。

『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』の画像

火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』

朱野帰子による小説『対岸の家事』を原作としたヒューマンドラマ。専業主婦の主人公・詩穂が、生き方も考え方も正反対な「対岸にいる人たち」とぶつかり合いながら、自分の人生を見つめ直していく模様を描く。

■放送情報
火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:多部未華子、江口のりこ、ディーン・フジオカ、一ノ瀬ワタル、島袋寛子、田辺桃子、松本怜生、川西賢志郎、永井花奈、寿昌磨、吉玉帆花、五十嵐美桜、中井友望、萩原護、西野凪沙
原作:朱野帰子『対岸の家事』(講談社文庫)
脚本:青塚美穂、大塚祐希、開真理
プロデューサー:倉貫健二郎、阿部愛沙美
演出:竹村謙太郎、坂上卓哉、林雅貴
編成:吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
©TBS
©朱野帰子/講談社
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/taigannokaji_tbs/
公式X(旧Twitter):@taigan_tbs
公式 Instagram:taigan_tbs
公式TikTok:@taigan_tbs

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