『あんぱん』が持つ“朝ドラの伝統”と“新規性” 脚本構成とエンドカード消滅について考察

『あんぱん』の“朝ドラの伝統”と“新規性”

 まず、放送の最後に表示される、作品内容にちなんだ写真等を掲載するエンドカードが今回は存在しない。倉崎憲制作統括によるとエンドカードが掲載される5秒という時間を貴重な尺に回すことで豊かな表現、物語を視聴者に届けたいという意図のようだ。

 確かに物語の密度は高まっているが、筆者はエンドカードまで含めて朝ドラだと思って楽しんでいたので少し寂しく、『あんぱん』以降の朝ドラもエンドカードなしとなるのかが気になっている。

 そしてもう一つ、これまでの朝ドラと大きく違うのがオープニングだ。

 CGで作られたバーチャルなだまし絵のような多層的な町の中を今田美桜が走り回る映像はSF映画のワンシーンのようで、浮遊感があって心地良いが、昭和が舞台の『あんぱん』の世界とはミスマッチにも感じる。

 RADWIMPSの主題歌「賜物」の抽象的な歌詞による転調の激しい楽曲は、今のJ-POPでは珍しくないスタイルだが、毎朝放送される朝ドラで聴くには違和感が強く、良くも悪くも耳に残る。

 近作の『虎に翼』の米津玄師と『おむすび』のB'sによる主題歌が、歌詞とメロディがシンプルで毎朝繰り返し聴いてもノイズにならないように朝ドラに最適化されていたのと比べると「賜物」の異物感は強烈だ。

 ただ、何度も観ていると、巨大な鉛筆が伸びていく場面があることや、カメラが引くとコマ割りされた漫画の中を今田美桜が走っているように撮っていることがわかってくる。おそらく後に漫画家となり『アンパンマン』を生み出す、柳井嵩の脳内のイメージを映像化しているのだろう。

 子ども向けの絵本やアニメとして定着して久しいため『アンパンマン』の世界観は日本人にとっては原風景となっており、今では違和感なく受け入れられている。だが、あんぱんでできた顔を、困ってる人に食べさせるヒーローの在り方を筆頭に、かなり奇抜でぶっ飛んだ物語で、生前のやなせたかしもまた、かなりぶっ飛んだ天才だった。

 だから今は異物感たっぷりに聴こえるOPと主題歌も、放送が進むにつれて「これしかない」という感じで、自然と作品に溶け込んでいくのではないかと思う。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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