『あんぱん』が持つ“朝ドラの伝統”と“新規性” 脚本構成とエンドカード消滅について考察

新しいNHK連続テレビ小説(以下朝ドラ)『あんぱん』の放送が始まった。
本作は『アンパンマン』の作者として知られる漫画家・やなせたかしと、その妻・小松暢の夫婦をモデルにした、柳井嵩(北村匠海)と朝田のぶ(今田美桜)の物語。
物語は第1話冒頭で、50代の嵩とのぶの姿を見せた後、2人の幼少期にさかのぼっていく。

昭和2年(1927年)。高知県の御免与町で暮らす朝田のぶ(永瀬ゆずな)は駅に到着した父親の結太郎(加瀬亮)を走って迎えにいった際に、母親の柳井登美子(松嶋菜々子)と共に町に訪れた嵩とぶつかり「気をつけやボケ」とキツい言葉を浴びせてしまう。その後、同級生となった嵩が父を亡くし、伯父の柳井寛(竹野内豊)のお世話になるためにこの町にやってきたことを知ったのぶは、嵩を心配するようになり、彼のことをいじめっ子から守ってあげるようになる。
朝ドラの幼少期のエピソードでは、各登場人物にとって後の人生を決定づける出来事が描かれることが多い。のぶにとってそれは嵩との出会いだが、同時に2人が父親を失ったことが描かれている。特に嵩は父を亡くしただけでなく母親が柳井家を出ていき、取り残されることとなる。

第1話は「正義は逆転する。信じられないことだけど、正義は簡単にひっくり返ってしまうことがある。じゃあ、決してひっくり返らない正義ってなんだろう。お腹を好かせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」という、やなせたかしが『アンパンマン』に込めた有名なメッセージから始まる。
ここで言う「正義は簡単にひっくり返る」とは、戦時中と戦後で価値観が大きく変わった日本のことで、後に描かれる戦争体験を踏まえての言葉だと理解したが、第1週を最後まで観ると、ある日突然、父親を失った嵩とのぶの心情を表しているようにも感じた。
実際、第1週の第5話では、父を失い傷心の朝田家の人々に「決してひっくり返らない正義」としてフーテンのパン職人・屋村草吉(阿部サダヲ)が焼き立てのあんぱんを届け、家族で美味しくいただく場面が描かれた。おそらく今後は「簡単にひっくり返ってしまう正義」の悲劇が描かれた後、「決してひっくり返らない正義」としての「あんぱん」(食べることの喜び)が様々な形で描かれるのだろう。
幼少期から物語が始まる本作を観て、久しぶりに朝ドラらしい朝ドラが始まったなぁというのが『あんぱん』の第一印象だ。実在の人物をモデルに戦前・戦中・戦後を描く構成は2010年以降の朝ドラの成功パターンで、有名な漫画家の生涯を妻の視点で描く夫婦の物語は『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)を彷彿とさせる。その意味で2010年代以降の朝ドラの成功パターンを集約したストレートな朝ドラとなりそうだが、一方でこれまでにない試みも印象に残った。




















