『クジャクのダンス』は松山ケンイチの“考察”も楽しかった 作り手とSNSの距離感を考える
製作に携わる立場の人物による作品の“解説”は貴重な情報であるが、それはどこまで開示されるべきなのか。「作品の楽しみを損なわない」基準について明日菜子はこう述べる。
「あくまでも本編を観たいという気持ちを掻き立てる補足であるべきだと思います。我々のようなライターもですが、解説だけで満足してしまい、作品に辿り着かないというのは本末転倒ですよね。また、“SNS投稿を見ないと物語がわからない”ような発信はフェアではないと個人的には思います。もちろん視聴者が受け取り間違いをすることはあるので、軌道修正したいという気持ちはわかります。ですが、いくらSNS社会になったといえど、インターネット上にいない視聴者の方が圧倒的に多い。だからこそ、作品のメッセージはやはり作品の中に収まっていてほしいですね」
作品のプロモーションに製作陣のSNS発信がほぼ必須となっている現代。新たなエンタメとしての側面がある一方、そこにある程度の心理的・肉体的コストが生じることも事実だ。
「なかには、自身の担当作品の放送直前にSNSアカウントを削除していた方もいました。制作者の生の声を知れることは嬉しいですが、昨今ますますインターネットの言論空間が殺伐としているので、作り手の皆さんはくれぐれも無理をしないでほしいなと思います……」
このような動向は、ドラマに限らずあらゆるフィクションでみられる現象だ。アニメライターのストロングユニバースはネットミームを持ち出しながら今回の話題についてこう述べる。
「アニメシーンを中心に“公式が勝手に言ってるだけ”といったミームがあります。作り手が明かした作中の設定を視聴者が認め難いとき、たとえば主要キャラの死亡が明かされたときなどにしばしば使われるワードですね。半分ネタ的に使われることも多いんですが、わりと真剣にこの言葉を口にする視聴者もいて、それこそ“死”があいまいに描かれたシーンなどでは意見が分かれることもあります」
さらにフィクションを語る上では“事実”の特定が難しいとして、こう続ける。
「松山さんの発信や“公式が勝手に言ってるだけ”問題は、フィクションをめぐる言説においてファクトを確定させるのがいかに難しいのかを物語っています。松山さんの例で言えば、たとえば“犯行動機”とかそれに対する同情とか共感とかの場合だったら、それを確定させるのは作り手でも完璧には不可能だったと。でも“犯人候補が複数いること”自体は事実なので、松山さんはうまいこと事実の範囲内でエンタメとしての考察に視聴者を巻き込んでいたのだと思います」
『クジャクのダンス、誰が見た?』は作品自体のクオリティをもさることながら、現象論としても今後語り継がれうるドラマになったかもしれない。
「このマンガがすごい!2024」にもランクインした浅見理都の同名漫画を実写化するヒューマンクライムサスペンス。クリスマスイブの夜に元警察官の父親を殺された娘が、遺された手紙を手がかりに真相に迫っていく。
■配信情報
金曜ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』
TVer、U-NEXTにて配信中
出演:広瀬すず、松山ケンイチ、森崎ウィン、瀧内公美、絃瀬聡一、野村康太、清乃あさ姫、斉藤優(パラシュート部隊)、酒井敏也、酒向芳、藤本隆宏、西田尚美、仙道敦子、原日出子、リリー・フランキー、磯村勇斗
原作:浅見理都『クジャクのダンス、誰が見た?』(講談社『Kiss』所載)
脚本:金沢知樹
プロデュース:中島啓介、内川祐紀、丸山いづみ
演出:田中健太、青山貴洋、福田亮介、棚澤孝義
主題歌:Ado「エルフ」(ユニバーサル ミュージック)
製作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
























