『べらぼう』小芝風花の切なすぎる「ありがとうござりんす」 花の井と蔦重のすれ違う思い

さらに、瀬川が手に取った本は、あの鱗形屋が起死回生を図った新作の青本『金々先生栄花夢』。瀬川が慌てて蔦重に声をかけるも、当の蔦重は「俺もあっという間に読んじまったよ」と呑気な調子。そして、今の蔦重には忘八たちも味方についているから大丈夫というのも、瀬川にとってはなんとも心がモヤモヤとする展開だ。

遊女たちを幸せにしたいと願う蔦重。瀬川は、そんな彼の言う「幸せにしたい遊女たち」の中の1人に過ぎなかっただけのこと。蔦重の成功を願い、彼の実力を信じ、どんなことをしてもサポートしようと気張っていたのは自分だけだったのか。
まるで『金々先生栄花夢』で金兵衛が栄華を極めた夢から目覚めて虚しさを感じたように、蔦重の夢に自分の夢を重ねて奮闘してきたことが、すべて手のひらからすり抜けていくような感覚になったのだろう。「馬鹿らしゅうありんす」と瞳をうるませながら笑った瀬川の言葉に、心が折れる音が聞こえた気がした。
遊女に手を出すことがご法度とされて育ってきた蔦重のように、自分の願いを語ることを許されずに育った瀬川にとって、手に取った本こそが本音を語っているように見えた。「ありがとうござりんす。(『女重宝記』を)せいぜい読み込みいたしんす」と、あえて花魁言葉で啖呵を切った瀬川は、蔦重がそう望むなら彼が幸せにしたい遊女の形に徹しようと決意したのかもしれない。

しかし、人は失ってみて初めて大切なものに気づく生きもの。いよいよ瀬川の身請け話が現実味を帯びてくると、蔦重の心境も変わってくることだろう。間夫への恋心ゆえに、身請け話を嫌がって自害した先代の瀬川の話に、自分の性分じゃ起こりようがないと言っていたが……。蔦重の立身と深く関わる瀬川の恋の結末からも目が離せない。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















