玉森裕太の繊細な演技を堪能した3カ月間 『あのクズ』海里×ほこ美の軌跡を振り返る
編み込みをしマウスピースをしたほこ美(奈緒)が対戦相手からのパンチを受け、倒れる。朦朧とする意識の中彼女の頭に浮かぶのは「なんで私こんなことしてるんだっけ?」という自問自答だ。その原因であり理由となった人物が、ほこ美のいるボクシング会場に駆けつけ、片手にはカメラを持っている。『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)第1話は、そんな印象的なシーンから始まった。
結婚式当日に新郎に逃げられ、相手の浮気まで発覚した主人公のほこ美と、その場にたまたまカメラマンとして居合わせた海里(玉森裕太)。傷心モードのほこ美を助けてくれたのも彼で、慣れないバー通いに意味深で悩ましいカクテル言葉、「ほっこー」という特別な呼び名に不意打ちのキスと、次から次に恋の始まりフラグが立つも、第1話早々にオセロの白が全て黒にひっくり返るような展開が待ち受ける。
自分にとって運命の人だと思った海里の正体が“誰のものにもならない”クズ男であることがわかり、その天国と地獄のようなギャップこそがほこ美をボクシングに向かわせる。「思ったよりバレんの早かったなぁ」と開き直る海里はその瞬間心を閉ざし一気に凍らせたような冷たさを見せた。
しかし、思えばほこ美の元婚約者との直接対決の場を設け、結婚式のキャンセル料の徴収にも協力した海里は、そのお礼にと食事に誘ったほこ美からのオファーを最初は断っていたし、指定したのは屋台のラーメン屋。そこまで“計算”しているとは思えなかった。また女性複数人と遊ぼうとするのも海里なりの優しさにも思える。
本当にお金が目当てであれば一人や少数を相手に本命と思わせた方が手っ取り早く簡単にその願いは叶うだろう。同居人の悟(倉悠貴)からもホストを勧められていたが、海里にとってお金目当てではないのと、少数を対象にして本気にさせるほどに相手をより傷つけてしまう可能性が高くなることを危惧しているように見える。何より誰かに深入りしすぎるのをずっと避けていて、マイルドな雰囲気の中に絶対に超えられないバリアを華麗に纏う海里の一筋縄ではいかなさそうな雰囲気を玉森裕太は見事に演じていた。
バカ正直で真っ直ぐなほこ美といると、海里も“生き直し”ができるような気持ちになったところもあったのではないだろうか。自分は7年前に置いてきてしまった喜怒哀楽や素直な感情表現。それがむき出しのほこ美のことを最初は面白がりつつも、どんどん目が離せなくなっていく。自分の現状や本音から目をそらす術ばかり習得してしまった海里にとっては、いつだって真剣勝負で無防備にも自ら傷付きにいくようなほこ美は、やはり“こんな子初めて”だったのだろう。
カメラマンとしての仕事には手を抜かず、被写体らしさを捉えられるようにと粘る海里の写真を見て、「普通の生活が滲み出ていてこの写真を見ていると幸せな気持ちになる」とこぼしたほこ美。そんな彼女の言葉に海里はハッとしたような表情を見せるが、純粋で計算のないほこ美の言動に、海里は自身の本音を突きつけられる思いがするのだろう。