玉森裕太の繊細な演技を堪能した3カ月間 『あのクズ』海里×ほこ美の軌跡を振り返る

玉森裕太の繊細な演技を堪能した3カ月間

 7年前の対戦試合から時が止まってしまった彼からすれば、誰よりも“普通の生活”の尊さを実感し、何よりそれを心の底から希求していたはず。そこに気づいてくれるほこ美の視点をありがたく思いつつも、大地(大東駿介)やその家族から“普通の生活”を奪ってしまった自分に、そんな言葉は似つかわしくないと跳ね除けてしまう。

 ほこ美と出会ってからの海里は変化の兆しを掴みそうになりながら、自分にはふさわしくない、そんなことを願ってはいけないと思い直す、その繰り返し。夢や希望を持った分だけ自分の過去が仇になりまた地獄に叩きつけられる。日々自らを傷つけ小さな絶望感を味わい続ける海里の繊細さと、そんな中でも少しずつ自分の殻を破っていく姿を、玉森は大袈裟ではなく静かに丁寧に自然に見せてくれてきた。クズ役を買って出た方が、便利で楽で後腐れがないが、ほこ美はそれを放っておいてはくれない。

 自分を信じて体当たりしてくれるほこ美の容赦のないお節介と手加減なしの愛情に触れて、海里は“痛み”を感じる回路を取り戻していく。夢や希望を諦めることに慣れてしまわず、自分の道を自分の足で歩き出そうと決めた矢先に起こる、心を打ち砕くような出来事の数々。ほこ美が危険に晒されたり、同居人の悟の複雑な感情に今の今まで気づかなかった自分に、ほとほと愛想をつかせたかのような表情が本当に切ない。海里の身に降りかかるあれこれをもっと誰かのせいや過去のせいにできたら楽なのに、彼は全てを自身が原因だと受け止める。逃れられない過去の一点から逃げないで向き合い続けているからこそ手放さなければならなくなってしまうことが多々あり、あたかも海里が様々なことから逃げているかのように見えてしまうのもやるせない。

 自身のことを後回しにすることばかり覚えてしまった海里が、そして自分のことを疫病神のように思ってしまっていそうな海里が、プロボクサーになったほこ美の姿を撮影するという約束を果たせるだろうか。第1話冒頭のシーンに繋がるのだろう最終話の展開が楽しみだ。

■放送情報
火曜ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜放送
出演:奈緒、玉森裕太、岡崎紗絵、小関裕太、倉悠貴、鳴海唯、玉井詩織(ももいろクローバーZ)、晝田瑞希、渡部篤郎、斉藤由貴
脚本:泉澤陽子、鹿目けい子
プロデュース:戸村光来、佐井大紀、宮﨑真佐子
演出:岡本伸吾、石井康晴、小牧桜
主題歌:PEOPLE 1「メリバ」
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/anokuzu_tbs/
公式X(旧Twitter):@anokuzu_tbs
公式Instagram:anokuzu_tbs
公式TikTok:@anokuzu_tbs

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