ザック・スナイダーによる“本気”の北欧神話 『トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ』の“伝承”

『トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ』の伝承

 そして、神話の最終戦争である、大いなる混沌「ラグナロク」へと、物語は突入していく。この戦いを経て神々の運命は尽きていくこととなるはずだが、それが怒りにまかせた神の一方的な暴力から引き起こされたという点は、示唆的だといえる。神話の世界は現実と同じように、さまざまな種族に分かれ、しばしば混じり合いながら生活している。しかし、互いを尊重せず、猜疑心や差別的な見方をすることで、すぐさま殺し合いにまで発展する場合がある。

 さらにエピソードのなかには、同性愛が蔑まれ、「男らしさ」が尊ばれる環境から争いが生じ、死者を出す展開へと発展する話も語られる。他者を認め、多様な価値観を大切にしなくては、自身の繁栄をも望めないという考え方が、ここに示されているといえよう。

 神話とは、現実の反映としてかたちづくられたものでもある。そう考えれば、現代の世界で起きている戦争や、さまざまな問題が、個人個人の不寛容さから生じていることにも共通点を見出すことができる。本シリーズは、神話と現実の諸問題とのリンクを強調することによって、そういった教訓を強め、現代における神話の存在意義を再確認させているのである。

 「現代風に解釈するのでは、本物の北欧神話とは程遠いのでは?」という疑問を持つ人もいるかもしれない。しかし、もともと北欧神話は『エッダ』として文章にまとめられる以前から、ずっと口頭伝承によって人々の間に脈々と伝えられてきたものだ。その間に、語り手の心情や思想、社会の移り変わりが、物語に反映されてきたと考えるのは普通のことだ。本シリーズでも、夜に皆で火を囲み、酒や食べ物を手にしながら、語り部の話を聞くというエピソードが設けられている。

 そう考えれば、神話を現代風に解釈した本シリーズ『トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ 〜神々の黄昏〜』もまた、現代の“語り部”による神話の伝承の一つだといえるのではないか。

 だが一方で、本シリーズは最高神オーディンが勇敢に死んだ兵士たちを集結させる世界「ヴァルハラ」の存在を意識させることも忘れていない。死んでもなお戦い続けることを美徳とする戦士の価値観は、現代の多くの人々にとって受け入れ難いものがあるが、そういった“異物”を提示することもまた、神話を語る意味に繋がっているともいえるだろう。

 Netflixでは、アニメシリーズ『ゼウスの血』やドラマシリーズ『KAOS/カオス』など、ギリシア神話を現代風に解釈した作品も配信されている。そういう神話を基にした作品を楽しむことで、普段は意識しない多くの物語の根っこに、われわれは気軽に親しむことができるのである。もちろん、古い書物をもともとに近いかたちで読むことにも大きな意味があるが、一方で神話を、自分の世界に引き寄せて考え、感じることが、真に伝承を自分のものとし、歴史のなかに生きていくということなのではないだろうか。

■配信情報
『トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ 〜神々の黄昏〜』
Netflixにて配信中

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる