ザック・スナイダーはなぜ万人ウケしないのか 『ジャスティス・リーグ』の熱狂から探る

ザック・スナイダー、なぜ万人ウケしない?

 ザック・スナイダー監督によるザック・スナイダー版『ジャスティス・リーグ』が3月18日にHBO Maxで配信されます(日本での配信・公開は未定)。先日公開されたトレイラーにジョーカーの姿が確認できたこと、2017年公開の『ジャスティス・リーグ』とはテイストが随分異なりそうなこともあり、ファンの期待は高まるばかり。

Zack Snyder's Justice League | Official Trailer | HBO Max

 しかし、ザック・スナイダー監督の作品は万人ウケしにくいというか、一部の熱狂的なファンから愛されているイメージでは。そこで、今回はザック・スナイダー監督の作風や、なぜファンがザック・スナイダー版『ジャスティスリーグ』に期待しているのかを掘り下げていきたいと思います。

そもそもザック・スナイダー版『ジャスティス・リーグ』とは?

 2017年に公開した『ジャスティス・リーグ』は、もともとスナイダー監督がメガホンを握り、ポストプロダクション段階まできていましたが、最愛の娘が自死してしまったために、監督を降板し、作品はジョス・ウェドン監督が引き継ぎました。

 ところが、内容が大幅に変更された上に、ウェドン監督らしいジョークが随所に散りばめられた作品となり、もともとスナイダー監督版の『ジャスティス・リーグ』を楽しみにしていたファンからは大ブーイングを食うことに。

 その後、どこかに存在するであろうスナイダー監督版の『ジャスティス・リーグ』の公開を求める#ReleaseTheSnyderCutキャンペーンが始まり、ファンの期待に突き動かされたスナイダー監督が、スナイダー版『ジャスティス・リーグ』(通称:スナイダー・カット)として公開することになったのです。

ザック・スナイダー監督作の魅力とは

 最大の魅力は、重厚で宗教的な映像美でしょう。

 芸術家の母親のもとで育ち、幼い頃から芸術に触れていたスナイダー監督の作風は、ビジュアル作りに絵画を参考とすることもあり、ショット1枚1枚がまるで絵のような美しさです。より現実離れした美を追求するために細かな表現すらVFXで再現し、建造物のディテールにもこだわりを見せる一方で、重厚感を出すために全体のトーンを落とし、こだわりの背景を見えにくくするという贅沢な使い方もします。そのため、劇場で見落とした細部を堪能するために、Blu-rayのボーナストラックや製作秘話で明かされるVFXの解析映像を観ることで、監督のこだわりを楽しむファンもいるほど。

 映像美の他に、残虐描写にも定評があります。それは恐怖や痛みをより効果的に見せるために、登場人物の背景や心情を深く考察し、物語に落とし込み、観客に感情移入させやすくしているからだと考えられます。

感情や暴力を強調するスローモーション

 スナイダー監督はナレーションを多用する一方で、肝心な部分は「語るより感じさせる」で、キャラクターが人生を左右するイベントに直面した時には、セリフよりもスローモーションを使い、その表情や場面から、観客に心情を想像させる傾向があります。

 例えば、『300』で兵士が谷底に次々と落ちていく有名なシーンでは、スローモーションにすることで、観客に、ひとりの人間の命が消えていくことを意識させています。戦闘シーンや暴力シーンをスローモーションで描くのも、暴力という原因により、損傷という結果が伴うことをできるだけ明確に観客に伝えるためです。

 物に語らせるという点では、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の冒頭シーンであるブルース・ウェインの母親の死のシーンが印象的です。強盗は、マーサ・ウェインが身につけているパールのネックレスに拳銃を滑り込ませ、トリガーを引きながらネックレスを破壊。カメラは飛び散るパールをスローモーションで追います。

 真珠のネックレスはマーサ・ウェインの死を印象付ける大切な小物です。過去作でも両親の不幸な死の象徴として描かれてきましたが、本作では飛び散ったパールを長く丁寧に見せることで、パールが持つ意味である「長寿」「無垢」「富」「円満」も、同時に粉々に砕け散ったことを観客に念押ししているのです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる