『夜のクラゲは泳げない』こだわり抜かれた画面設計の素晴らしさ 竹下良平の演出を分析
この春から放送されているTVアニメは、音楽アニメが人気を集めている。その中でも『夜のクラゲは泳げない』は、オリジナルTVアニメの特性を活かし、竹下良平監督の過去作を踏襲した特徴的な演出が楽しい作品だ。今回は画面比率とカメラの意識を中心に、今作の演出の面白さに迫っていきたい。
『夜のクラゲは泳げない』の主人公・光月まひるはイラストレーターの海月ヨルとして活動していたこともあったが、その夢も半ば頓挫し普通の女子高生として過ごしていた。そんなある日、元アイドルで暴力スキャンダルで騒がれた山ノ内花音と出会う。意気投合した2人は「JELEE」というネット発の音楽ユニットを結成する。
竹下監督は『エロマンガ先生』や『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』を原作としたWebアニメ『放課後のブレス』を手掛けたほか、TVシリーズのOP、EDでも絵コンテ・演出を担当し、注目を集めている演出家だ。『夜のクラゲは泳げない』では過去作の演出を踏襲し、映像の魅力を高めるだけでなくテーマ性を持った表現として昇華している。その工夫を一言で表すならば「カメラに対する意識」だ。
アニメと実写の異なる点はいくつもあるが、その1つがカメラやレンズが不在という点だ。カメラワークなどの実写と通じる技術も多々あるが、アニメは基本的に2次元で表現されるために、何か指定がない限りは画面の全てがはっきりと映るパンフォーカスであることが多い。アニメにおいてピントがズレた映像表現があった場合、偶然の結果ではなく、あえてそのように演出する意図がある。
画面比率の演出も同様のことが言える。映像メディアの画面比率は映画であればシネスコの2.35:1、TVで放送されるのであれば16:9のワイド画面というように、放送される媒体によって決まることが多い。TVアニメであれば全編をワイド画面のままで放送するほうが手間もかからないが、あえてスマホの縦長画面、あるいはシネスコに変更することで、ワイド画面で描かれていた物語とは違う何かを描こうという意図が生まれる。
ここで竹下の近年の演出を語る上で特徴的な、スマホを連想させる画面比率を変更する映像表現に着目したい。前後にスマホを構える描写が挟まれていないにもかかわらず、縦長の画面比率に変更されることによって、その映像がスマホで撮影されていると視聴者が理解できるのだが、その理由を過去作を引用しながら説明したい。
過去作から具体例を挙げると、竹下が絵コンテ・演出を手掛けた『呪術廻戦』の第1期2クール目のEDでは、冒頭から登場キャラクターの日常をスマホで撮影する演出を駆使している。学生服で都内を回り、海辺で高校生らしくはしゃぐ様子を縦長の画面比率で描くことで、登場人物たちがより身近な存在に感じられるように演出されている。また『先輩がうざい後輩の話』のOPでも絵コンテ・演出を務めているが、同様の演出が見受けられることからも、まさに竹下演出の必殺技ともいえるだろう。