『パーセント』が切り取ったあまりに尊い“物語”との出会い 誰もが“壁”と向き合うために

『パーセント』が切り取った尊い“物語”

 第3話で劇中ドラマ『%』の撮影が始まり、スタッフ間の打合せで「ハル以外の劇団『S』のメンバーの出番があまりにも少ない」と訴える未来に対し、監督の羽座丘(小松利昌)がつい口走ってしまった「(シーン内に障害者が多数映ることで)余計な情報はノイズになるやんか」という一言が、観ているこちらの胸にグサリと突き刺さる。

 この「つい口走ってしまった」というところが恐ろしいのだ。どんなに理解のあるような顔をしていても、いくら「自分の中にそんなものはない」と否定しても、ふとしたときにこぼれてしまう差別心。このドラマは、そんなところまで斬り込んでくる。

 そして、羽座丘の言った「ノイズ」という言葉が、未来の胸にも突き刺さる。かつて未来がバラエティ番組のスタッフとして、グルメレポートのためにカフェを撮影したときの記憶が記憶が蘇る。右手に欠損がある女性店員がスイーツを出そうとしていたところ、未来は彼女に「こっちの(逆の)手で出してもらって、あとは撮り方とか編集とかで映らないようにするんで」と言ってしまったのだ。自分も、女性店員の手を「ノイズ」として排除してしまっていた。主人公の偽善さえも炙り出してくる作劇だ。

 「スケジュールと作品の本質とのたたかい」という、ものづくりの現場が必ずぶち当たる問題が赤裸々に描かれる。撮影の進行が遅れて詰まってきて、やむを得ず効率化をはかるために劇団「S」のメンバーの出番はおろか、主役を演じるハルさえも、後ろ姿は「吹き替え」で撮ろうという流れに。未来と同棲している恋人で、脚本協力としてスタッフに入っていた町田(岡山天音)が、このままだと目的達成のために「やっつけ」で障害者を利用しているだけになってしまうのではないかと、異を唱える。「私はそんなふうに思ってない」と否定する未来に返した町田の言葉が、またも突き刺さった。

「思ってるか思ってないかじゃなくて、どう見えるかちゃう? それって未来がいちばん気にせなあかんことちゃうの?」

 これは、今エンターテインメントやメディアに携わる全ての人が、心に刻まねばならない言葉ではないだろうか。物書きの端くれである筆者も、常にこの言葉を指針にしたいと心に決めた。「一人も傷つけない表現」というのはもちろん実現不可能だ。けれども、だからこそ、「発信」をする人は常に、自分の表現が無自覚に誰かを傷つける可能性がある、ということを絶対に忘れてはならない。

 『パーセント』の作り手は、身を挺してドラマの中でそれを自戒し、自問し続けている。制作者として未熟な未来は、チーフプロデューサーの植草(山中崇)や、編成部長の長谷部(水野美紀)から、何度も何度も企画書のダメ出しを食らうのだが、その「ダメ出し台詞」には、本作の制作陣が考えては気づき、気づいては考えてきた過程がそのまま反映されているようだ。

「当事者を起用するってこと、相当厳しいと思うで」
「ごちゃごちゃともっともらしい理由をつけたって、こんな企画書じゃ話になりません。根本的に『人間を描く』という意識が欠如しています」
「彼女たちの体や生き様に、そんなペラッペラな物語を貼り付けるのは失礼です」
「誰もがマイノリティでありマジョリティでもある。気がつかないうちに自分も誰かを排除している可能性がある。それを突きつけるようなものに、化けさせてほしいんです。あなたが腹くくらなくてどうするんですか?」
「現実が全く見えてへん。お前の人生を投影するつもりで、もっと自分事として捉えてみてくれへんか」
「頭でっかち。あなた、このドラマ観たいと思いますか?」

 そうした過程を経て、このドラマは「障害者をかわいそうがる」という「上から目線」も「説教臭さ」も一切排除して、上質なエンターテインメントとして成立させている。なおかつ、長谷部の指摘にあった、誰しもの心の中にある差別心や色眼鏡を「突きつける」作品になっている。

 車椅子に乗ったハルは、「障害者=かわいそう」というイメージを払拭する、勝ち気でちょっと口の悪い、自立心に富んだ性格だ。未来は、劇中ドラマ『%』でハルに当て書きする主人公を通じて「カッコいいハルちゃんが観たい」と望む。車椅子に乗った高校生の主人公は、それまでの設定をひっくりかえして、自立心旺盛で誰もが憧れる「カッコいい女の子」に変更された。

 ハルも未来も、そして劇団「S」の面々も、「障害者だから」「女性だから」という、社会から押しつけられるカテゴライズやラベリングに悩み、葛藤し、ぶつかりながら、「私らしい生き方、在り方」を探していく。第3話まで観たところで筆者は、気づけばもう彼女ら・彼らのことが大好きになってしまっている。それはこのドラマの作り手が、障害のあるなしに関係なく、属性に関係なく、一人も「モブ」にすることなく、どの人物についても「人間を描く」ことを丁寧に実践してきたからに他ならない。

 結局は「人間」なのだ、という結論にたどりつく。『パーセント』の世界の中で生きる人たちも、テレビの前の私たちも、みんな道の途中。「壁」は自分と他者との間の前に、まず自分自身の中にある。

 「わからない。でも。あきらめない。」という番組キャッチコピーが語りかけてくる。人はそれぞれ違う苦しみや痛みを抱えていて、それはその人自身にしかわからない。だから、わかった気になってはならない。でも、あきらめずに対話を続けていくことが大切なのではないか。

 最終回では、どんなエンディングを見せてくれるのだろうか。筆者は予告でハルが未来に言っていた「人の気持ちなんか簡単にわからへんから、わかりたくてドラマ作ってるんちゃうの?」という台詞に、胸が熱くなってしまった。

 「陰キャ」で冴えない高校時代を送っていた未来を変えた『学園サンデー』。ハルが俳優を志すきっかけとなった『銀河鉄道の夜』。誰しも、自分を救ったり、鼓舞したり、踏み出すきっかけを与えてくれる「物語」に出会う瞬間がある。『パーセント』もきっと、誰かにとってそんな物語になることだろう。

■放送情報
土曜ドラマ『パーセント』
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜放送
※翌週火曜24:35~再放送
BSP4Kにて、毎週土曜9:25〜放送
出演:伊藤万理華、和合由依、結木滉星、菅生新樹、小松利昌、山下桐里、成木冬威、水口ミライ、河合美智子、岡山天音、菊池亜希子、山中崇、橋本さとし、余貴美子、水野美紀 ほか
作:大池容子
音楽:池永正二
主題歌:インナージャーニー「きらめき」
制作統括:櫻井賢、安達もじり
プロデューサー:南野彩子、葛西勇也
演出:大嶋慧介、押田友太
写真提供=NHK

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