“無双なし”が転生ものの変化球に? 『無職転生』『鑑定スキル』が描く“成長の物語”

“無双なし”が転生ものの変化球に?

 現代社会に生きる私たちにとって、日常は様々なストレスに満ちている。そんな中、「実力隠し系」、「俺TUEEE系」など、主人公がチート能力を発揮して無双する異世界最強アニメが人気ジャンルとなっている。

 『転生したらスライムだった件』『俺だけレベルアップな件』などの同ジャンルの人気の高さを見ると、チート級に強い主人公の圧倒的な活躍を読んだり観たりすることで、ストレス発散やカタルシスを得ているファンが多いことが伺がえる。アニメの世界で主人公が圧倒的な力を持ち、困難を易々と乗り越えていく姿に、多くの人が憧れを抱くのではないだろうか。

 これらの作品の主人公は、物語の展開の中で主人公が圧倒的な強さを見せつけ、周りを驚かせるシーンは、視聴者にスカッとした気分を味わわせてくれる。その一方で、「最初から強い」、「生まれながらにチート能力の持ち主」という設定であることが多く、「努力して強くなる」、「挫折を乗り越えて精神的に成長する」といった描写に重きを置かない傾向にある。この“主人公が最初から強すぎる”という設定をどう捉えるかは、作品を楽しめるかどうかの分かれ目となるだろう。

 チート系主人公が活躍する王道の異世界アニメが人気を博す一方で、特に最近の作品では最初から圧倒的な強さで無双するわけではないものや、そこに重きを置いていない“NOTチート”な作品も人気を集めている。異世界ものの中でもエッセンスを吸い出したテンプレートの中で、チート設定そのものに飽きてしまったファンや既存作品との差別化を求めるファンもやはり一定数いるようだ。

『無職転生II ~異世界行ったら本気だす~』

 そういったファンから支持されている人気作の代表例として、現在放送中のアニメ『無職転生II ~異世界行ったら本気だす~』が挙げられる。主人公のルーデウスは転生に伴うチート能力を持っているわけではなく、あくまでも魔術の才能のある人間に過ぎない。確かに、とある理由により魔力総量の限界値は高いものの、彼が手にした能力のほとんどは、たゆまぬ努力の成果なのだ。

『無職転生Ⅱ』【転移迷宮編】PV/毎週日曜24:00TOKYO MX,BS11ほか放送中/ABEMA・dアニメストア地上波最速同時配信中

 また、ルーデウスは物語の中で何度か大きな挫折を経験し、年齢を重ねるにつれて精神的にも成長していく。第17話「兄貴の気持ち」では、ラノア魔法大学の寮で引きこもってしまったノルンに対し、ルーデウスは前世の自分と重ね合わせながら、彼女と向き合い続ける。ここには、前世からの心の成長も描かれているのだ。

 

 物語の鍵を握るのは、第18話「ターニングポイント3」だと言えるだろう。シルフィとの幸せな暮らしを手に入れ、ある意味では「理想の人生」を手にしたルーデウス。『無職転生』では、章の区切りになるような話に「ターニングポイント」というタイトルが付けられる。

 これまでの流れから、基本的には順調に進んでいるストーリーの最中に「ターニングポイント」の話が入ってくるため、次第に「ターニングポイント」という文字を見るだけで、視聴者はハラハラするようになるくらいだ。幸福の絶頂にいるルーデウスの内面が、3回目となるターニングポイントを経てどのように変化していくのかにも注目が集まっている。

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