『岸辺露伴』の末永いシリーズ化を希望 『ルーヴルへ行く』を成功させた複雑な脚本構成

『岸辺露伴』の末永いシリーズ化を希望

 そんなドラマ版『岸辺露伴』の集大成と言えるのが、劇場映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』だ。そして、劇場版の一番の見どころはルーヴル美術館内部のロケーションだろう。

 原作はフルカラー漫画で、黒い絵にまつわる超常現象の場面では荒木飛呂彦のイマジネーションが爆発したおぞましくも美しい描写となっていた。映画では、歴史あるルーヴル美術館のロケーションを用いることで、全く違うアプローチの映像に仕上がっている。

 脚本も原作漫画を膨らませた複雑な構造となっており、黒い絵と露伴の過去が絡んだ見応えのある物語となっているのだが、何より考えさせられるのが「芸術」をめぐる重い問いかけだ。

 露伴は漫画の取材のために立ち寄った土地で怪異現象に遭遇し、何度も死にそうになる。それでも彼が探求をやめないのは面白い漫画を描くためだが、「この世で最も黒く、邪悪な絵」に関わった者たちは「呪い」によって命を落としていく。

 芸術を追求した末に辿り着いた作品が誰も幸せにならない「呪い」だったとして、その表現は許されるのか? という疑念は、『岸辺露伴』の中では時々、見え隠れするテーマであり、今回の映画では全面に打ち出されている。

 露伴というキャラクターが面白いのは、天才肌の変人でありながら、不特定多数の読者に向けて作品を描く漫画家であるということだ。

 ルーヴル美術館で出会ったファンに対して、露伴が目にも見えない速さでサインを書く場面が象徴的だが、人間嫌いに見えても、彼は読者とのつながりをとても大切にしている。前衛的ゆえに呪われた芸術に惹かれながらも、最終的には「だが、断る」と否定して露伴は現実に戻ってくる。それは彼が芸術家である前に大衆と向き合う漫画家だからだろう。そんな露伴の姿は、どれだけおぞましいビジュアルを描いても『ジョジョ』や『岸辺露伴』で「人間讃歌」を描こうとしている荒木飛呂彦のスタンスとも重なる。泉京香という普通の女性をバディとして配置したことで「人間讃歌」としての側面がドラマシリーズでは更に強く際立っており、思想面でも荒木ワールドを見事に踏襲している。

 5月10日には、いよいよ新作エピソードとなる第9話「密漁海岸」も放送される。集大成となる映画を経由してドラマに戻ってきたことで、今後ますます面白くなっていくことは間違ないだろう。年に数本だけ放送するという独自の構成だからこそ成立する『岸辺露伴』の贅沢な世界を、末長く味わいたいものである。

■放送情報
『岸辺露伴は動かない』第9話「密漁海岸」
NHK総合にて、5月10日(金)22:00〜23:00放送
NHK BSP4Kにて、5月5日(日)13:00~14:00 ※先行放送
出演:高橋一生、飯豊まりえ、蓮佛美沙子、Alfredo Chiarenzaほか
原作:荒木飛呂彦
脚本:渡辺一貴
脚本協力:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
演出:渡辺一貴
制作・著作:NHK、NHK エンタープライズ、ピクス
写真提供=NHK

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』
NHK総合にて、5月6日(月・祝)15:55~17:54放送
出演:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信、美波、木村文乃
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(集英社 ウルトラジャンプ愛蔵版コミックス 刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣装デザイン:柘植伊佐夫
製作:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、NHK エンタープライズ、P.I.C.S.
©2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

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