高橋一生「自分の尺度で世界を見ていくことが大事」 『岸辺露伴』を通して届けたい思い

高橋一生、『岸辺露伴』を通して届けたい思い

 取材部屋に入ってきたとき、インタビューでの受け答えをしているとき、スチール撮影をしているとき、まさにそこには「岸辺露伴」がいた。

 熱狂的な多くのファンを抱える漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。そのスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』が実写化されると聞いたとき、楽しみで仕方なかったと同時に、「大丈夫か?」という不安もよぎった。なぜなら、岸辺露伴というキャラクターはクレイジーでカッコよく、現実を超越したような存在だからだ。しかし、そんな不安を軽々とはねのけたのが、岸辺露伴を演じた高橋一生であり、監督を務めた渡辺一貴であり、脚本を手がけた小林靖子をはじめとした、キャスト・スタッフたちだ。

 そんな熱狂を巻き起こしたドラマシリーズを3期まで終えたあとにやってきたのが、同じキャスト・スタッフが再集結した映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。2009年にルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトのために描き下ろされた123ページによる荒木飛呂彦初のフルカラーコミックが原作となる。

 文字通りスケールアップした『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』に高橋一生はどう挑んだのか。渡辺監督との絆から、溢れ出る岸辺露伴愛まで、じっくりと話を聞いた。

「露伴邸」によって形作られた高橋一生の岸辺露伴

――『岸辺露伴』シリーズは当サイトでも第1期から多くのインタビューをしてきました。高橋さんと渡辺監督の絆が本作の熱狂を生み出してきたと感じています。渡辺監督とは、ドラマシリーズはもちろん、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』でも一緒に仕事をされていますが、高橋さんはどんな監督と捉えていますか?

高橋一生(以下、高橋):長くお芝居をさせていただいていますが、(渡辺)一貴さんは最も信頼している監督の一人です。一貴さんは、演じるキャラクターの心の動きや、感情的な部分をすべて役者に任せてくださる方。どう見えているか、どう見せたいかといった形式的なことはリクエストしてはこない。俳優を信頼してくださっているのがすごく伝わる方なんです。監督によっては、AポイントからBポイントまで動かないといけないというシーンがあるときに、「こんなふうに身振り手振りをつけて、こんなふうに表情を作って」と非常に細かい指示を出される方もいます。

高橋一生

ーーその点、渡辺監督は「AポイントからBポイントまで動いてください」のみになると。

高橋:そうなんです。まず役者に委ねてくださるので、僕自身も最初のお客さんとして、一貴さんにお芝居を見せたいと思えるんです。俳優が何をできるかを理解して、信じてくださる。そして、最初の観客として、俳優の芝居を楽しんでくださる。その上で、一貴さん自身の中にあるさまざまな引き出しや、瞬発的に湧いたアイデアを現場で演出して、画を作っていく。各々の役割を明確に理解した上で、監督として何をしなくてはいけないのか、それができる方なんだと感じています。

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――以前、渡辺監督がインタビューの中で、高橋さんの露伴を「凄みが増した」と毎年の変化を語っていました。高橋さん自身としては、毎年“更新していこう”という意識はあったのでしょうか?

高橋:僕の中では、お芝居として同じところをずっと叩き続けているような気がするんです。ですが、シリーズごとに物語は違いますし、共演者の方も変わる。それに対応していくのに自分が今まで通りのことをやったとしても、体現していく物事はきっと変わっていくので。それが一貴さんにとって、今まで観たことがない一面だったということはあるのかもしれません。この役だったらこうするだろうという感覚を僕はもともとあまり持っていません。それよりも、このときこの場面でこの人だったらどのような感じが一番僕の中に腑に落ちて気持ちいいところか、居心地の悪くないところか、ということを常に探っています。それが一貴さんには「凄みが増した」「変わった」と思っていただけのならただただ嬉しいです。

若き日の岸辺露伴を演じるのは長尾謙杜

――露伴の変化という点では、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』では、ドラマシリーズでは描かれなかった露伴の過去が描かれるだけに、より心の内側と向き合う作業があったように感じます。

高橋:そうですね。タイトル通りですがドラマの『岸辺露伴は動かない』という受動と、今回の映画の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』という能動の、対になる形になっています。露伴自身が何かに呼ばれて「行く」ということになり、そして、自分自身の過去とも向き合うことになります。その点では、これまでと違う一面が見せられているのではないかと思います。

――今回も荒木飛呂彦さんの原作からの脚色が非常に巧みだと感じました。本作では、「罪」というものが大きなテーマになっているように感じましたが、その点については?

高橋:原作は、ルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトの『9番目の芸術』の絵画として出展されているものであったので、どちらかと言えば構図や絵柄、色彩が重視された荒木先生のこだわりが見える非常に絵画的な作品だなと思っていました。今回、実際に生身の人間が演じるにあたり、原作漫画では描かれなかった部分も補完するような形で物語が紡ぐことができたのではないかと感じています。脚本の小林(靖子)さんの素晴らしい構成に驚きました。

高橋一生

――原作コミックがあり、文字としての脚本があり、実際の撮影があり、とそれぞれのプロセスで感じるものが違ったかと思います。脚本を読まれたときのイメージと、実際の撮影現場でのイメージで何か大きな違いがあったものは?

高橋:実はイメージの違いというのはあまりないんです。というのも、非常にありがたいことに、物語の始まりはいつも「露伴邸」からなんです。ドラマシリーズから3年も撮影させていただいている場所なので、ここを訪れると自然と世界の中に入ることができます。また、美術スタッフの方々の細やかな仕事で、露伴邸の本棚にある書籍が毎回違うものに変わっているんです。露伴先生だったらきっと今はこれを読んでいるよねと。なので、現場に入ったらいつもその本を手にとって読むようにしているんです。

ーーそれは驚きです。本が変わっていることもそうですが、それを高橋さん自身も読まれているんですね。

高橋:スタッフの方々が考えている露伴像はこういうことかと読んでいても面白いですし、自分にもフィードバックできるものがあって。みなさんの露伴像を現場で吸収していると、露伴だったらきっとこう動くだろうということが自ずと見えてくるんです。脚本を読んだときに感じたものとはまた違う意識も現場に入ると生まれて。ドラマシリーズでは、感じた思いをそのままに、リハーサルとはまったく違う動きをしたこともあったのですが、一貴さんがそれを面白がってくれるのも大きかったです。

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