『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は完璧な映画化 宮下兼史鷹が高橋一生の“声”を絶賛
お笑いコンビ・宮下草薙のツッコミとして活躍する宮下兼史鷹。芸人としての顔以外にも、ラジオや舞台など多岐にわたる活躍をしている。おもちゃ収集が趣味、サブカルチャーに精通している無類の映画好きである彼の動画連載『宮下兼史鷹のムービーコマンダー』。第7回となる今回は、全国公開中の映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の魅力について語ってもらった。
ドラマ『岸辺露伴』のファンも満足がいく作品
ーー本作は、ドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)のキャスト&スタッフが再集結した映画ですが、全体の感想は?
宮下兼史鷹(以下、宮下):もともとドラマの『岸辺露伴は動かない』がとても好きだったんです。他のドラマで例えるのもアレですが、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)の神回をずっと観ているようでした。原作のようにスタンドが見えているとバトル作品になるけど、スタンドが見えないことによってよりミステリー感が出ていて怖いんですよね。ここ最近の日本のドラマの中で、唯一追いかけて観ていたので、映画も期待して観に行きましたが、非常に良かったです。何が良かったって“張り切ってない感じ”がよかった。あまり他の劇場版を否定することはしたくないですが、劇場版としてスケールが大きくなってしまったことでドラマ版の良さが死ぬときが結構あるなと思っていて、本作はそれが全くなかったんです。ドラマの延長線上でしっかりやっている。肩肘張っていない。良い意味で力が抜けているのがとても良かった。視聴者やファンが岸辺露伴のどんな物語を観たいかを制作陣がよくわかってくれている気がして嬉しかったです。
ーー確かに。ドラマのトーンがそのまま活かされていましたね。
宮下:やはり劇場版って、“大爆発”が起きるイメージなんですよね。なんかドカーンといきたくなるわけですが、本作はその“大爆発”が起きていないところが僕はすごく好きです。贅沢に時間を使って、じわじわと物語が進む。おそらくドラマ版だとパパッと見せる部分を、しっかりじっくり見せてくれる編集になっている。より『岸辺露伴』らしいスローペースな物語の運び方になっているのが良かったです。ドラマ版は家で観ていたじゃないですか。あの、家でゆっくりしながら観るのが、すごく良かった作品だとも感じているんです。じゃあ劇場版になって映画館に観にいく意味ってあるのかな、と思う人もいると思うんですけど、『岸辺露伴』シリーズの良さって、1カット1カットの絵画みたいな映像美なんですよ。構図もそうですが、雰囲気も相まってなのか、どこを切り取っても絵になる感じ。なので、映画館で観たときにすごく映えて、美しさがより強調されるんです。すごくスローペースな話だし、派手などんちゃんがあるわけではありませんが、僕は劇場で観たほうが“静”の美しさがより感じられると思うので、そういう意味でもぜひ劇場に足を運んでほしいと思います。それに、ルーヴル美術館の中を見られるだけでも価値があると思いますよ。ファンとしては、聖地巡礼できるのも楽しみなポイントです。
ーードラマのファンも満足がいく作品になっている?
宮下:そうですね。コロナ禍に制作された第3期のドラマで、飯豊まりえさん演じる泉京香が「やっぱり次(の取材先)は海外ですよ」ってことを言っていて。これがすごくいいと思ったのは、「あ、いいよね。確かに海外に行きたいよね」っていうみんなの思いがちゃんと映画になって形になっていることなんです。視聴者と一緒に歩んでいる感じがするし、なんとなくみんながルーヴルに行くことも期待していたなかで映画としてやってくれたことがすごく嬉しかったです。
ーー今作では、岸辺露伴の過去にも触れられていましたね。
宮下:そうですね。本作は“この世で最も黒く、邪悪な絵”を巡る話で、岸辺露伴の青年期が描かれる。そこで彼が過去に出会った女性・奈々瀬……おそらく露伴にとって初恋の相手を木村文乃さんが演じています。そもそも僕、木村さんが大好きで、一時期彼女が出ていたドラマは全て観ていたくらい、結構コアなファンなんですよ。木村さんは普段ハツラツとした明るめの役を演じることが多いですが、そこにあるちょっとした陰のような、闇のような部分をなんとなく僕は感じていました。そこがすごく好きだったんです。そしてまさに、その陰の部分を強調したのが本作での役柄で、やはりすごく合っていました。この役は木村さんじゃないとできないなって思うくらい、陰のある感じが素敵だし、一見怖くも見えてしまうくらい雰囲気がある。観ていると、こちらが恋をしてしまうような……。露伴が彼女を見ていると近づいてきて、「今、見てたでしょ」と言うところもすごくよかったです。僕も露伴じゃないけど、久しぶりに映画を観て恋をしました(笑)。
ーー飯豊まりえさん演じる泉京香も、映画ならではの素晴らしい活躍ぶりでした。
宮下:飯豊さんの泉京香が物語のバランサー的な役割を果たしているんですよね。彼女も癖は強いっちゃ強いんですけど、周りに奇妙なやつが多いんですよ。少し口が悪いかもしれませんが、“頭のネジが飛んだような連中”がたくさん登場する中で、普通……と言うと違うけど、朗らかな性格のキャラが1人いるだけで物語のバランスがすごく良くなっている。そもそも彼女は原作にも登場していますが、そこまで濃く絡んできてないんですよ。それをあえて飯豊さんを起用して、ドラマの本筋を「岸辺露伴と編集者の話」にしたことによって、原作よりも見やすくなっているように感じます。編集者と漫画家の関係性って結構特殊だし、傍から見ると不思議で面白いなって。他のドラマではあまり打ち出せない関係性ですし、そこでまた奇妙な出来事が起きるのが、『岸辺露伴』シリーズの良さだと感じています。