『虎に翼』憲法記念日に法律の存在意義を示した凄さ 朝ドラを更新する吉田恵里香の構成力

『虎に翼』が憲法記念日に訴えたもの

 『虎に翼』の主人公は、闘うのでもなく、守るのでもなく、きれいな水を守るーーつまり自身もまた清らかであろうとしている。タイトルバックでも寅子の体から水がほとばしっている。それは裁判官の仕事だと桂場(松山ケンイチ)は感じる。先述した判例を書いたのが桂場で、そこにはロマンチシズムのみならず、司法に“私利私欲にまみれた汚え足で踏み込んできた”検察を唾棄すべき存在としての怒りが含まれている。  

 ここのところ、映画やドラマの世界では、二項対立ではなく、人間は白にも黒にもなるものだという考え方が浸透し、そういうふうに描くことが作品のクオリティが高いとも思われるようになっていた。朝ドラでいえば『エール』(2020年度前期)もそのひとつだったと思う。 『虎に翼』の制作統括・尾崎裕和チーフプロデューサーが担当した『エール』では、主人公である作曲家(窪田正孝)がインパールに楽隊として出向き、その場でほかの人たちがむざむざ殺されていくのを目の当たりしたことで、自分の音楽が戦意高揚に使用されていることに悩みはじめるエピソードがあった。

 『エール』では主人公でもともすれば闇のほうへと傾く可能性もあることを示唆したが、『虎に翼』はさらに次の段階にあり、いろんな事情があるけれど、絶対に守らなくていけないものがあることを「きれいな水」という言葉を用いて説き、それを行っている桂場に自らを「潔癖」と言わせている。

 混沌から生まれた人間が知性を身に着け駆使したことで生まれた正義や倫理という概念。それが黒にも白にも揺れる人間の野生を律するものである。例えば、それぞれの主張のもとに争いがちっとも解決しないとき、どうしたらいいのか。そのために法律というものが生まれたのだろう。そして時を経てよりよいものへと改正されていくのだろう。はたして法とは、桂場や寅子が美しいものと信じるに足るものなのだろうか。守るべきものと変えるべきものとをどう仕分けしていくのか。

 「きれいは汚い、汚いはきれい」という言葉もあって絶対的なきれいなものとは人間の永遠の課題である。守りたいものとはーー猪爪家が父の無罪を勝ち取って家で祝う食卓、笹山(田中要次)の寿司、「おいしいものの話はいつでもできるでしょう」(寅子)と食べ物につぐ食べ物の話。やっと団子にありつけたときの桂場の表情。映画のチケット。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜~金曜8:00~8:15、(再放送)毎週月曜~金曜12:45~13:00
BSプレミアム:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜8:15~9:30
BS4K:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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