『ブギウギ』羽鳥善一を“人間”にした草彅剛の凄み “主役”としてのスピンオフにも期待

『ブギウギ』羽鳥を人間にした草彅剛の凄み

 今さら、と言われるかもしれないが、草彅剛が醸す空気感や雰囲気には決してほかの俳優が真似できないサムシングがある。たとえば優しい目の奥にふと見える怒りや哀しみ、何を考えているのか読み取れない非凡さ、明るく振舞えば振舞うほど寂しさが見え隠れする表現。羽鳥善一はまさに草彅にしか演じられない役だった。

 特にそれを強く感じたのはスズ子が歌手の仕事に迷いを持ち始めたドラマ終盤だ。自分が作曲した歌を最高の形で観客に魅せてくれる彼女が後輩歌手に「ラッパと娘」を歌わせて良いかと羽鳥のもとを訪ねる。このあたりから羽鳥のせりふ量がグっと減った。でも私たちには彼が何を考えているのかはっきり伝わる。その目の奥に、表情すべてに羽鳥の言葉にできない気持ちが溢れ出ていたからだ。せりふに頼らず表情で……というか、胸の深いところで役の心情を紡いでそれを表出させる技術。まさに『ブギウギ』終盤の草彅に映像演技の真骨頂を見た気がする。

羽鳥の家・居間にて。麻里からスズ子の引退についてのある報告を受ける羽鳥善一(草彅剛)。

 だから本音を言えば、このふたり、羽鳥とスズ子が戦前から戦中、そして戦後の日本で音楽の世界に足跡を残し、革命を起こすくだりをもっと観たかった。おそらく脚本の足立紳(一部、櫻井剛)は『ブギウギ』を「人間・福来スズ子」によりフォーカスした物語にしたかったのだろう、「歌手・福来スズ子」ではなく。だから「歌手・福来スズ子」が最後のコンサートで万雷の拍手の中、舞台にそっとキスを置くシーンでなく、翌日からも続く生活=朝食の場面でこのドラマの幕を下ろしたのだ。その朝の光の中にもう羽鳥の存在はない。

 近年の朝ドラでは本編の最終回後、しばらくしてスピンオフドラマが放送されることも多い。もし『ブギウギ』でスピンオフが作られるのなら、私は草彅剛演じる羽鳥善一が片割れである「歌手・福来スズ子」が歌の世界から去ったあとにどう生き、どう音楽と向き合ったのかその姿を観てみたい。きっと今の草彅であれば、すべてを受け止め、あの優しくも熱に溢れた表情で前に進む羽鳥の生きざまを完璧に演じてくれると思うからだ。

 また「ズキズキワクワク」する羽鳥に会いたい。

■配信情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
NHK+、NHKオンデマンドにて配信中
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー) 
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie

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