『ブギウギ』趣里の“背中”と菊地凛子の“微笑み”は人生を物語る 第1話を超える第91話に

『ブギウギ』趣里の背中に見たスズ子の人生

 「東京ブギウギ」爆誕。ようやくここへたどり着いた、と2番までのフルコーラスの「東京ブギウギ」を聞きながら感慨に浸ったNHK連続テレビ小説『ブギウギ』第19週。第1週、冒頭で描かれた、福来スズ子(趣里)が赤ん坊の愛子を、茨田りつ子(菊地凛子)に預けてステージに出ていくのは、渾身の新曲の初披露だったのだ。

 おもしろいもので、同じ場面ながら、第1週で流れたときは、“ブギの女王”の貫禄を見せつける、完成されたヒロインのイメージとして見えたものが、第19週では、これはまだ山の途中であり、でも、ようやくここまで来たという印象を受けた。

 傍から見れば、燦然と輝き揺るぎないスターが、じつはその裏側では、いろいろ苦労を経験し、ときには泣きべそをかいたり立ち止まったりしているのだということが18週かけて描かれたということである。それが、ステージに出る前の、スズ子の背中に現れて見えた。

愛助の遺影に手を合わせる福来スズ子(趣里)。

 趣里は背中で語る俳優である。第18週、愛助(水上恒司)の死に呆然と一晩寝ずにベッドの上に座ったまま明かすときの背中も印象的だった。第91話、逆光で影になったまっすぐな背中、無駄のないしなやかな僧帽筋は、満身創痍でリングに立つボクサーのようにも見えた。華奢で、少女のように見え、かわいらしい声でしゃべったり笑ったりしているスズ子だが、表の顔の裏(背中)に誰にも見せない顔がある。

 振り返ると、福来スズ子には数奇な運命がつきまとってきた。実の母から離れ、養父母に育てられた。幸い、養父母に愛情深く育まれ、歌や踊りが大好きになって生業にするまでになる。羽鳥(草彅剛)に、日本人離れした、欧米のリズムや表現力を感じさせる独特の才能を見出され、ジャズを得意とする歌手として人気を博し、「スイングの女王」の異名を持つようになった。

 戦争がはじまり、欧米の楽曲が禁じられ、活躍の場が縮小するも、なんとか糊口をしのいで生き抜いた。その間、彼女のファンだった愛助と出会い子供をもうけるまでに愛情を深めるが、結婚を愛助の母・トミ(小雪)に認めてもらえないまま、死がふたりを分かつ。

 養母・ツヤ(水川あさみ)、弟・六郎(黒崎煌代)、愛助と、大切な人が次々と去っていくスズ子。しかも、そのとき、彼女はいつも仕事に追われ、死を前にして弱った、愛する人たちに十分に寄り添うことができず、その無念がつきまとって離れない。母も弟も愛助も、決してスズ子を恨んだりはしてはいない。いつだってスズ子のことを想い、スズ子らしく生きていくことを願って先立っていくのだ。

 みんなの願いを背負い、生きていく責任がスズ子にはある。だからこそ、歌う。愛助は、スズ子の歌には、人を元気づける力があると言い、母トミの出した結婚の条件である、歌手を引退することを強く拒んだ。

 あまり強調してはいないけれど、スズ子は、身内を一番に考えることよりも、もっと広い世界に目を向けて、不特定多数のために歌声を響かせる役割を担わされた、選ばれた人なのである。だから、身近な幸福と縁が薄くなる。

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