『ブギウギ』趣里の“背中”と菊地凛子の“微笑み”は人生を物語る 第1話を超える第91話に

『ブギウギ』趣里の背中に見たスズ子の人生

 同じような宿命を背負っているのが、茨田りつ子である。スイング、ブギの女王に対して“ブルースの女王”のりつ子は、自分の宿命をなかなか受け入れられないスズ子と比べると、躊躇なく受け入れているようだ。

 いつの間にか出産を経験し、その子を青森の実家に預けて、子育てを放棄し、ひたすら歌い続けている。戦時中は、派手な衣裳とメイクと、敵性音楽を歌うことを、どんなに反対されても貫いた。ひじょうに意思の強い人物である。

 生活感がまるでなく、つねに超然として見えるりつ子だが、彼女にも波乱万丈な日々があった。第91話で、「東京ブギウギ」を披露する前の楽屋のシーンを再撮したことで、りつ子にもまた、艱難辛苦の積み重ねた時間を感じることができた。

 第1話で感じたミステリアスな雰囲気よりも、第91話のりつ子の表情は、いろいろあったけれどここまで歩いて来たという安堵と、苦しみを超えて深まった人間性のようなものに満ちていた。「ズキズキワクワク」の意味はわからないけれど、と笑いながら空を仰ぐ笑顔には、トンネルを通り抜けたときのような光が当たり、それは、彼女のというよりも、スズ子の歌を聞きに来た多くの聴衆の表情の代表にも見えた。悲しみをずっと歌ってきたりつ子に対して、スズ子はいつだって悲しみを笑顔で跳ね返していく。

 スズ子の背中、りつ子の微笑み、と、その人の意外な一面が見えた場面で、羽鳥は安定の陽気な表情を見せている。さすが、指揮者役である。彼が、このドラマの基調を守っている。

 羽鳥善一の奏でる音の豊穣なる海のなかで、スズ子もりつ子も自由に泳ぎ、聴衆はひととき、癒やされる。楽しく陽気に、自分らしく。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー) 
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie

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