『つくたべ』に託された願い かけがえのない“個人”が幸せを追求できることを願って
同名人気漫画をドラマ化し、2022年11月より放送され好評を博した『作りたい女と食べたい女』(NHK総合)のSeason2が、1月29日から放送される。「続編」と謳いながら、全10回で放送終了した前作の、文字通り「続き」となる今作は「第11回」からスタートする。
Season1の第10回でいつもより張り込んで、いいトロやウニを調達し、手巻き寿司パーティーを堪能して年越しを過ごし、一緒に初日の出を見た野本さん(比嘉愛未)と春日さん(西野恵未)。Season2の初回となる第11回は、年末年始の料理にお金を使い過ぎてしまった2人が節約料理にいそしむエピソードから始まるという。ここで、「夜ドラ」枠では初の続編制作となった本作のSeason1の魅力をあらためてふりかえってみたい。
野本さんこと野本ユキは料理を作ることが大好きで、自身のSNSの料理専門アカウントに今日作った食事の写真をアップするのが日課だ。作ることが好きな人としては、メガ盛りの炒飯や、うずたかく積まれたタコ焼きタワーなど、いつかは大量に作ってみたいという夢がある。しかし野本さん自身は一人暮らしだし少食なので、その望みを叶えるのはなかなか難しい。
そんなある日、野本さんはマンションのエレベーターで、フライドチキンの「バケツ買い」2個を抱えたご近所さん、春日さんこと春日十々子と出会う。パーティーではなく、その量を1人で食べるのだという春日さんの言葉に、「たくさん作って、たくさん食べる人の美味しそうな顔を見たい」という夢をもつ野本さんの心はときめく。
かくして需要と供給が“シンデレラフィット”した2人が運命的な出会いを果たし、野本さんが料理を作って春日さんが食べる、という日々を重ねながら、2人の関係性を温め、そして深めていく、というのが本作のアウトラインだ。
しかしこのドラマの白眉なところは、ジェンダーの問題やフェミニズムについて、ひいては人と人どうしのコミュニケーションについて微細に、なおかつ思慮深く言及されている点だ。
野本さんは、小学生の頃から今に至るまで男性に恋愛感情を持てなかったが、第6回まで、自分がレズビアンであるとはっきり自覚していない。ただ、「料理が好きだ」と言えば「いい奥さんになりそう」とか「絶対いいお母さんになるタイプ」とか「野本さんの彼氏になる人は幸せだね」とか言われてしまう、そんなマジョリティの価値基準が正義たる社会に、生きづらさを感じていた。
「自分のために好きでやってるもんを、全部男のためだって回収されるの、つれ〜な〜……」
第1回の、この野本さんのモノローグが本作の「核」といえる。世間が「常識」という名の風呂敷に包んで押し付けてくる「型」。その「型」に収まりきらない人たちの心の叫びと願いが、このドラマには詰まっている。
第7回で野本さんは、自らが春日さんに対して抱く感情は何なのかと自問し、ネットで調べたりしながら、自分がレズビアンであることを初めて受け止めるのだが、そこに至るまでの6回の、2人の心の機微や感情の行き交いの描写が見事だ。
主である父と、女子供では、おかずの数が違うのが当たり前という封建的な家庭で、春日さんは育った。だから実家を出てからは、自分が好きな時に、好きなだけ、好きなものを食べられることの喜びを謳歌していた。
第6回で春日さんは、「野本さんに出会えて、『食べたい』を受け入れてもらえてからは、ずいぶん前より楽です」と打ち明ける。そして、ただ純粋に料理を作ることが好きなだけなのに、全てを恋愛や結婚に紐付けされることに嫌気がさしていた野本さんは、「春日さんに『ただ作りたい』を受け入れてもらえて、嬉しかった」と涙ながらに語った。
食べ物と料理が主題のひとつであるこのドラマ。野本さんが作る料理はどれも夜23時前に見るには危険なほどに美味しそうなのだが、そのラインナップに目を見張る。ものすごく手が込んでいるわけでもないのだけれど、1人だったらちゃちゃっと簡単に済ませるかもしれない食事を、「一緒に食べてくれる人」がいるならば、量も質もワンランクだけアップさせちゃいました、プチ贅沢してみました、という絶妙なラインをついてくるのだ。