『カラオケ行こ!』綾野剛から漂う“死の気配” 野木亜紀子の脚色で深まる原作への理解

『カラオケ行こ!』綾野剛から漂う“死の気配”

 1月12日に公開された山下敦弘監督の映画『カラオケ行こ!』は、合唱部部長の中学生・岡聡実(齋藤潤)と、ヤクザの成田狂児(綾野剛)の物語だ。

 狂児が所属する祭林組の組長はカラオケが好きで、毎年カラオケ大会を開催するのだが、最下位になるとイレズミを掘られてしまう。だから狂児はたまたま観た合唱コンクールで一番良かった学校の部長である聡実に「歌がうまくなるコツ、教えてくれへん?」と声をかけ、笑いながら距離を詰めてくる狂児のペースに聡実は振舞わされながら、カラオケを通して交流を深めていく。

 原作は和山やまの同名漫画(KADOKAWA)。二人の男子高校生の日常を描いた『夢中さ。きみに』(KADOKAWA)や、女子校の男性教師と女子生徒の日常を描いた『女の園の星』(祥伝社)などの作品で知られる和山やまは、BL(ボーイズラブ)から恋愛要素をギリギリまで削ぎ落とした男の子の友情物語を、脱力したコメディとして描くことに定評がある。

 一方、監督の山下敦弘は脱力したテンションの低い笑いを引いた映像で撮る作風で知られているのだが、この被写体に対する距離感は、和山やま作品と相性が良い。

 また、山下監督は『リンダ リンダ リンダ』や『味園ユニバース』といった音楽映画に定評があり、『カラオケ行こ!』にもヤクザたちがカラオケで歌う場面で様々なヒット曲が登場する。同時に聡実は合唱部なので、中学生たちが歌う合唱曲も多数流れる。その意味で本作も音楽映画だと言えるだろう。

 中でも狂児の持ち歌であるX JAPANの「紅」は劇中で繰り返し流れ、ストーリーやキャラクターのバックボーンに深く組み込まれており、もはや「紅」映画と言っても過言ではない。

 男同士の友情や複雑な愛憎も『マイ・バック・ページ』や『ぼくのおじさん』といった作品で山下監督が撮り続けてきた得意とするモチーフであり、作風、題材ともに山下監督と和山やま作品の相性はとても良かったと言える。

 何より、この2人の作風のシンクロに一役買ったのが、野木亜紀子の脚色だ。

 近年はオリジナルドラマの脚本が多い野木だが、出世作となった連続ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)を筆頭とする原作漫画の脚色に定評があり、映像化された作品を観ることによって、原作漫画の理解が高まることがとても多い。

 今回の『カラオケ行こ!』も、各シーンが持つ意味を抽出して、意図を明確化している。特に細心の注意を払って描かれていると感じたのがヤクザの狂児と中学生の聡実の世界の落差で、本来なら交わらない世界の住人が関わってしまったことで生まれた物語であることが、より深く伝わってきた。

 そんな野木の脚本の意図を読みとり、原作漫画のキャラクターを理解した上で、自分なりの狂児を見事に演じきったのが綾野剛である。

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